スイスロール(Swiss Roll)を極める part 2
前回、見栄えと巻きやすさから求めた小麦のタンパク濃度は、6~7%と暫定しましたので、sample C (タンパク濃度6.2%)をベースにして口どけと重厚さを改善しに行きました。
したがって、全卵(E: Egg)、上白糖(S: Superfine sugar)、小麦粉(F: Flour)、油脂(O: Oil (vegetable oil))、保湿用の水分(L: liquid)と略号設定すると
基本骨格の黄金比(重量比(gram ratio))は、E : S : F : O: L = 16 : 6 : 6 : 3: 3
と暫定しました。使用する卵の重量の1/3~1/4量の砂糖(上白糖ですので注意)と小麦粉(厳密には粉類全体)を等量混合し、さらに粉の重量の1/2量の植物油と希釈液(保湿確保のための液体;牛乳、水、生クリームなど)を加えたものが美味しいロールケーキに値する生地ということで、この辺のさじ加減がセンスとして身に着けばレシピの束縛から解放され素人でも自由度の高いオリジナル作成に踏み出せるのではないかと思いました。
さらに小麦粉のタンパク濃度を変更することで歯ごたえ(テクスチャー)を調整することができタンパク濃度が高いほど歯ごたえがよく、低いほどふわふわ感がでることもわかりましたが、断面の見栄えのよいスポンジ構造が得られるタンパク濃度は6~7%にあるようです。見栄えもよく歯ごたえも重厚さもあるものを作り出すにはこのタンパク濃度から改良していくのが近道と考えます。前回の断面像を見てどう改善すれば重厚な味が得られるかを考えるとき、このハチの巣状の気泡構造の中に重厚感を押し出す要素を詰め込むのが最も簡単な解決手段と考えられます。何を詰めるかですが、重量保持ができて濃厚さが保てるもの、おあつらえ向きなのがバターです。おまけに冷蔵庫に入れると少し硬度が上がるはずですので歯ごたえも改善することが予想されます。
そこで今回オイルをバターに置換してみました。置換量は小麦粉の重量(粉類の全重量ではありません)と等量にしてみました。バターを加えることで脂質の薄層が形成されスポンジ内部の水分蒸発が抑制されるはずですので加えるのであれば粉全体ではなく、使用する小麦粉の重量と等量混合で十分に効果を引き出したいと考えます。ただし、パウンドケーキのように全卵と等量置換すると明らかに焼き上がりの生地は硬化しますのでせいぜい全卵の半分重量が最大用量と考えました。卵の重量実測値から計算の簡略化をかねて、 小麦粉のタンパク濃度を7%に引き上げました。使用する薄力粉の重量=バターの重量(実質上の100%等量置換)となるように置換しますと、結果的にはオイル+保水分画(=粉の重量)の75%をバターで置換するきれいな置換率となりました。実際の焼く前の生地の流動性から評価すると保湿水は加える必要なく”0″でもよかったかな?という印象でした。
Ingredients: 材料と配合組成
材料配合組成は下記のとおりです。上記のごとく、小麦タンパク濃度は7%に調整しました。卵はegg yolk 4個で77グラム、egg white 4個で136グラム、 total 213グラムでしたので砂糖は80グラム, 粉類(薄力粉60グラム、コーンスターチ20グラム), 牛乳20グラム、バター60グラム、塩2グラムで配合しました。 バターの略号をB(Butter)として、計算上最終的な配合比 は、E : S : F : B: L = 10.5 : 4 : 4 : 3: 1となりました。
Materials | Amount: for 26 x 26 x 2cm square pan |
Egg Yolk | 4 ea |
Superfine Sugar | 60 gram |
Whole Milk for dilution liquid | 20 gram |
Salt | 2 gram |
Cake Flour | 60 gram |
Cornstarch | 20 gram |
Salted butter | 60 gram |
Egg White | 4 ea |
White Wine Vinegar | 3 gram |
Superfine Sugar | 20 gram |
Baking time | 180C x 10minutes |
生地の作成法はは前回同様で標準的な別立て法に基づき作成しましたので詳細は割愛します。ただし今回はバターが加わりますので、バターは湯煎で完全に液化し、メレンゲと卵黄混合液を混合した最終段階で加え、丁寧に混合しました。その後オーブンで180℃x 10分焼き上げました。
完成した作品は、蜂巣構造がタンパク11%の時に見られるのと同じくらいにしまっていましたが保湿感も弾力性も6.2%のロールケーキを上回っていました。いわゆる”モフモフ”でかつ重量感がずっしりとあります。しかしながら、スポンジ骨格を支えるタンパク濃度が7%ですと壁面の重量が不釣り合いに増加したことにより円筒状に巻いても最終的には楕円形の底面に至る様でした。巻く際には充填するフルーツを減らしてクリームを少し薄層にしたほうが綺麗に巻けるものと思われました。最終バージョンのロールケーキ において焼き色、重量感、保湿感の全てが改善され、濃厚さが加わっていました。十分満足のいく改善が得られたものと自己評価しました。下図写真左はタンパク濃度6.2%、右は7.0%およびバターに油脂を置換して食感の改善を試みた作品です。蜂巣構造内にバターが充填されたのがはっきりと見て取れると思います。
食べごろサイズにカットしてみると、色調も変化(黄色調から白色調に)、表面の焼き上がりも食欲をそそる褐色調となっています。
以上より、チョコレート苦手派流オリジナル定理としてのロールケーキ生地の材料配合黄金比を、
E : S : F : B: L = 10~11 : 4 : 4 : 3: 1
と決めました。