リコンビナントワクチン((Recombinamt Vaccine、またはサブユニットワクチン(Subunit Vaccine))がphase3試験に突入しています。すでに先行している、NVX-CoV2373(Novavax社)に関しては、phase3 trialの成績が報告されています。本邦では塩野義製薬がリコンビナントワクチンを手がけており、年末には供給開始となる見込みとも言われ始めました。リコンビナントワクチンと不活化ワクチンの違いは、S蛋白領域を抗原として用いるか、ウイルス蛋白全体を抗原として用いるかの違いになりますのでこの2つのワクチンで誘導される抗体成分の違いは抗S蛋白抗体以外の抗体(中和抗体として作用するかどうかは不明)を含むかどうかの違いとなります。それ故、中和抗体の産生誘導(抗RBD抗体が主体)に関しては、リコンビナントワクチンでは担保されていることは自明です。
①リコンビナントワクチンの構造
2020.12月の時点で治験/臨床試験の段階にあるリコンビナントワクチンを表1に示します(1)。
Novavax社のリコンビナントワクチンNVX-CoV2373が先行してphase3まで進行していますが、このワクチンの国内製造、供給は武田薬品が所有しているようです。全部で国内4社がリコンビナントワクチン を手掛けています。
リコンビナントワクチンに用いられているSARS-CoV2-ウイルス蛋白(S蛋白全体、RBD限定など)は、cDNAクローンニングの技術を用いてを産生されます。cDNAは、目的の蛋白をコードする領域に該当するmRNAを鋳型として逆転写酵素(reverse transcriptase)を用いて作成されます。組み替え体(リコンビナント: recombinant)を作成するにあたり、目的の遺伝子(DNA断片:この場合はSARS-CoV2-S蛋白領域のcDNA)を組み込む相手として用いられるDNAをベクターと呼びますが、一般にベクターとして利用されるものにはファージ(大腸菌に寄生するウイルス)、動植物ウイルス、プラスミド(細胞内にある核や染色体とは独立して存在する遺伝子)などがあります。
NVX-CoV2373の作成にはbaculovirus(バキュロウイルス)がベクターとして用いられています。バキュロウイルスのDNAに切れ目を入れて、SARS-CoV2-S蛋白領域(prototype Wuhan-Hu-1 sequence)のcDNAを組み込んで組み換え体を作成します(2)。このバキュロウイルス組み替え体を昆虫の細胞に感染させて増殖させることで組み替えS蛋白を大量生産します。産生された蛋白を精製して組み換え蛋白としてワクチンの抗原に用いています。通常リコンビナントワクチンは、この組み換え蛋白とアジュバント(反応促進剤)を一緒に投与することで強烈な抗体産生を誘導します。アジュバントとして用いられる薬剤を表2に示します。
Matrix Mは、キラヤサポニン( Quillaja saponaria Molina(チリ産))樹皮から抽出された天然の界面活性剤であるサポニンとコレステロール、リン脂質で構成される40nmのナノ粒子で、蛋白抗原とともに注射することで局所の抗原提示細胞(APC)を刺激し、所属リンパ節での抗原提示を増強して強大で持続性のある免疫反応を惹起します(3)。
NVX-CoV2373のphase1,2 試験で確認されたMatrix-M1の効果を図1に示します。
25μgのリコンビナント蛋白抗原をアジュバントを加えずに局注(図1-A)した場合に対して、5μgまたは25μgのリコンビナント蛋白抗原をMatrix-M1アジュバントとともに局注(図-B)した場合を比較すると強烈に中和力価が増強されているのが分かります(4)。しかも回復後患者血清よりも強く中和力価が誘導されています。2ドーズレジメン(21日間隔)でMatrix-M1アジュバントと共に投与された場合、中和抗体価は中等度〜重度のCOVID-19感染者の回復者血清の4倍に相当する強い受動免疫が誘導されていたことから、phase 3臨床試験では、5μgのリコンビナント蛋白抗原を50μgのMatrix-M1アジュバントと共に2ドース(21日間隔)で投与されるレジメンがプロトコールの基準とされました。