⑥サージカルマスクの飛沫拡散防止効果は、咳1回に対して飛沫分散を約60%減少させるが、連続した咳嗽に直面すると効果は減衰するので注意が必要である。
サージカルマスクの飛沫拡散防止効果は、フィルターに対する物理現象を考慮すると理解しやすい。
図7は、フィルターと口から呼出された飛沫の相互物理作用を示している(13)。飛沫の大部分はフィルター内面に集められファンデルワールス力で引き止められる。大きな飛沫の幾らかはフィルター繊維に衝突し、小さな飛沫に分離して跳ね返りこれらはマスクと顔面の隙間から漏れ出てthermal effectを受けると考えられる。小さな飛沫はブラウン運動によりフィルター繊維にトラップされるが、呼出時に既に十分な慣性力を得たサイズの飛沫はフィルターを貫通すると考えられる。
サージカルマスクは、呼吸により生じるエアロゾル を30%〜60%ブロックする。微粒子濾過効率(Filtration Efficiency:FE)は、マスクの微粒子捕集能力を評価する一般的な尺度であり以下の方程式で示される(14)。
Mittalらは、平均FE(FEav)を用いてProtection Factor (PF)は、PF = 1/( 1 – FEav)=Nu/Nd(Nu:フィルターに向かって入射するエアロゾル粒子濃度、Nd: フィルタを通過したエアロゾル粒子濃度)と定義し、この数値を用いてマスクの感染防御能を評価している(15). FEav0.63(63%)は、PF価2.0に相当する。PF価は値が大きいほどエアロゾル粒子の除去能が優れていると評価できる。上記の定義より対面する双方がマスクを装着した場合のPF=(Nu/Nd)*2と表せる。
図9は布、綿などの様々な素材で作成された市販のマスクとサージカルマスクのPF価を示している(15)。サージカルマスクはエアロゾル除去能に関して大部分のマスクに優っている。しかしながら注意すべきことは、サージカルマスクを装着することで、1回の咳(もしくは呼吸)に関しては飛沫分画全体の発生量をを総じて1/2に減少させると評価して良いとのコンセンサスが得られているが、連続する咳に直面するとその回数に応じて抑制力が減衰してくることに注意が必要である。
図10は、連続する咳の回数に対してどれくらい粒子濾過率が低下してくるかをグラフ化している。10回咳が連続すると元々の濾過能が、約8%減衰していることがわかる。以上から咳を頻回にしている感染者に対してはフィジカルディスタンスは公表値よりも大きく確保する必要があることを示している。すなわち同条件でマスクをしていても咳の頻度により飛沫感染のリスクが変わってくる。有咳症状感染者と無症状感染者のマスクによる感染阻止効率は大きく異なるのでこの点はフィジカルディスタンスを取る際に注意すべき事象である。またマスクは終日着用していると効果が落ちてくることは自明のことと思われるが、ディスポーザブルマスクは同じものを1日以上連用しないことが重要である。