Case 24-7part1; COVID-19 Transmission Route-part1: ①感染経路別の感染リスク(特に飛沫感染とバイオエアロゾル感染)に関して、②サージカルマスクの飛沫拡散防止効果と感染リスクについて

④φ100μm 以上の大型飛沫による飛沫感染は、対面距離が20cm以内(会話時)、50cm以内(咳込み時)でのみ優位に成立する。エアロゾル感染は、上記の距離を超えても発生し対面距離2m以内の大部分の条件下でエアロゾル感染>飛沫感染である。

図1のイラストにあるdroplet transmission、short-range airborne (aerosol) transmissionに関して、Chenらは対面の近接(間隔2m以内)距離での会話の感染リスクをCFDを用いて算出した結果を報告している(8)。

図5. 対面会話/咳込みに伴い吸入/表面沈着した飛沫数と距離との関係. Chen W, Zhang N, et al. Short-range airborne route dominates exposure of respiratory infection during close contact. Build Environ 2020; 176, 106839: pp1-pp16のFig. B2より引用

図5は、室温25℃、相対湿度50%、大気圧101,325Pa、無風、face to faceの立位対面で床面からの高さ1.75mの位置を口の位置とした条件で会話/咳をした場合に発生する飛沫と対面間隔の関係をグラフ化している(8)。飛沫径φは、3μm≦φ≦1500μmのサイズ分画、対面距離は10cm間隔で2mの距離までを想定している。左側が会話時、右側が咳き込み時、上段が吸入された飛沫、下段が沈着した飛沫の数と対応するサイズが色分けして表示されている。いずれの行動においても吸入された飛沫数は、沈着した飛沫数よりも1桁多い。沈着した飛沫の数は会話≦咳き込み時である。吸入、沈着ともにφ12μmの飛沫サイズ以下が最も多数である。飛沫の沈着数は、会話で30cm、咳で80cmの距離で大きく減少する。小型の飛沫は室内の空気の流れに従い、大型の飛沫は呼出時の慣性力に従い飛散すると考えられる。φ50μm以上の大型飛沫である場合は、咳込み条件においても対面距離が30cmを超えると飛沫感染は10%以下に抑えられる。会話もしくは咳込み条件下では、対面距離2m以内のほとんどの条件下でエアロゾル感染>飛沫感染となる。この様な結果を考慮すると飛沫とエアロゾルの境界はφ50μmにおいた方が良いのかもしれない。

⑤大きな声を出すほど飛沫の発生数は増加するが、そのサイズ分画は維持される。

一般に声を大きくすると発生する飛沫数は大きさに比例して増加するが、発生する飛沫サイズの分画はそのまま維持される(9)。

図6.声の大きさ(amplitude)と発生する飛沫の関係:S. Asadi, A. S. Wexler, et al. Aerosol emission and superemission during human speech increase with voice loudness. Sci Rep 2019; 9, 2348: pp1-pp11のFigure 3より引用。Arms: root mean square amplitude, Dp: particle diameter. ちなみに、Arms=0.45はextremely loud conversation voiceに相当しback ground 65dBで口元〜6.5cmの位置で98dBの声量、Arms=0.02は、quietは囁きレベルで〜70dB に相当。

図6はAsadiらが行なった声量を変化させた際に生じる飛沫の発生数と飛沫φの分画を実測した結果である(9)。”rainbow”という単語を英語で、quiet/intermidiate/loudの3つの声量で読み上げる条件で測定を行なっているが、飛沫φのピークが1μm前後にあることに注意が必要でエアロゾル(φ≦10μm)粒子が大部分を占めていることは注目すべきことである。これは会話がいかにエアロゾル感染を助長するかを支持する事象と言える。飛沫発生量はquiet→loudで6→53 particle/secにまで著増している。またこの傾向はBMIにより影響を受けないことも実証されている。ただし、これは英語を話す条件下で検証されたものであるため日本語で同じ傾向が保持されるかどうかは検証される必要がある。

飛沫の直撃(direct exposure)による感染成立は、顔面の粘膜部への付着に限定される。直撃箇所としては、顔面粘膜部をガウス平面として考えた場合その面積の大きさから、①口、②目、③鼻の順序となるがCOVID19ウイルスが細胞内に侵入する足掛かりとして利用するアンギオテンシン2変換酵素(ACE2)の発現は、嗅粘膜(深部鼻粘膜)において高率であり、それに比べてかなり低い割合で気管支粘膜、肺胞に認めらる(10)。またRT-PCR定量検査において気管支肺胞洗浄液や咽頭拭い液に比べ経鼻腔ぬぐい液検体の方が最大で200倍ウイルス量が多い(11)。この点は、唾液のPCR検査は適応を厳密に限定する必要があることを意味している。唾液PCR検査では、場合によって(特に無症状者)は検出できていない可能性が懸念される。

一方、大きな飛沫は表面に付着し、エアロゾル粒子のみが気管内に到達する。SARSもACE2を足掛かりとした感染形態をするが、SARS2 (COVID-19) はその10倍以上のACE2への親和性を持つと報告されている(12)。以上を考慮すると直接飛沫暴露による感染成立のメインターゲットは鼻腔粘膜と考えられ多くの症例が単なる軽微な鼻咽頭炎症状に帰結するのは容易に想定でき、何らかの起点により多くのバイオエアロゾルを吸入した場合が肺炎、またはそれ以上の病態に進展すると考えられる。これはCOVID-19の80~90%が軽微症状で10~20%が重症化する病態をそのまま反映していると考えられ、呼吸の際気流が乱流となりやすい鼾をかく肥満者や高齢者などは上気道内にエアロゾルを自力で発生させてしまうことで肺炎発症に進展させる自己増悪の機序が存在する可能性が想定される。これを防御する一つ手段として定期的に飲水をすることで洗い流しにより口腔内のウイルス濃度を低下させ、口腔内の十分な保湿により自己発生させる飛沫φを増大させるのがよいかもしれない。

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