②追い風条件では、マスクを着用しない場合6mのフィジカルディスタンスを必要とする場合が生じる。
屋外では、大量の空気が周囲に存在することで瞬時に飛沫が拡散され飛沫数濃度が限りなく希釈されると考えられるので閉鎖空間(室内)における感染リスクを考える際に大きな要因となる暴露時間依存性を考慮する必要性は低い。
しかしながら、追い風条件を想定すると飛沫の到達距離と広がりは想像を遥かに超えたところにある。
図3は、風速1m/s~4m/sの追い風条件が加わると6m先まで飛沫が到達することを示している(3)。特に4m/sの追い風条件では、1.6s後の6m離れた位置でも感染者の口から水平方向への延長線上である地面から1.63mの位置に飛沫が残存している。また追い風条件下では、飛沫雲が鉛直方向へのストレッチ(vertical strech)を受けて引き延ばされる特徴があるので感染者より背丈の低い感受性者は6mのフィジカルディスタンスをとってもリスクゾーンを回避できていないことに注意が必要である。飛沫雲は、乱流により低速の1m/sの追い風では水平軸に対して半時計方向に、高速の4m/sでは時計軸方向に回転する力を受ける。
③呼吸器感染症の重症度を左右する飛沫の直径は≦10μmのエアロゾルが主体であり、直径20μm以上の大型飛沫は全て口から発生する。
エアロゾル(aerosol)と飛沫(droplet)のサイズの上での棲み分けとしてWHOは直径φ=5μmを採択している(4)。則ち、φ5μm以下のサイズのparticleをエアロゾルと定義している。しかしながら、最近は感染症の重症度、疾病率、死亡率を左右する下気道感染症( ≒肺炎)を効果的に伝染するサイズとして、φ=10μmを区切りにする傾向にある(5)。飛沫感染を考えるにあたり、飛沫が病原体を感染させる部位は、その飛沫が生成された部位に近似するという原則がある。それ故、飛沫のサイズを知っていることは非常に重要で多くの呼吸器感染症の伝播形式は飛沫サイズに依存性を示す。
図4は、3つの部位におけるparticle(飛沫粒子)が生成される機序を示したものである。呼吸に伴い生成されるparticleは、主に吸気の際に生じる小さい気道の再開口により生じると考えられ、大部分は声帯などの表面を覆う液体膜が振動や動きにより破裂(film burst)することが原因となる(5)。以上を考慮すると喉頭近傍の感染巣は飛沫感染に最も影響を与える因子となりうる。
生成される飛沫のサイズは、①bronchiolar fluid film burst mode:通常呼吸時に生じるφ1μm以下の飛沫、②laryngeal mode:発声や咳で生じるφ1〜100μmの飛沫、③oral cavity mode:会話や咳で生じるφ100μm以上の飛沫の3分画に分類される(6)。φ20μm以上の飛沫は全て口腔由来の飛沫とされる(7)。