Case 24-5; COVID-19 part5-1: 疫学的手法における用語説明として、①contact tracing (コンタクトトレーシングまたはクラスター対策)、②潜伏期、③感染性期間、④発病間隔、⑤世代時間に注目して数理モデルの分枝図を参考にUPDATE

現在東アジア諸国は、欧米諸国と比べアウトブレイクのコントロールに成功しているように見えます。
これらの制圧圏内に収めている東アジアが採択している共通の対策は、
①徹底したコンタクトトレーシング(Contact Tracing)
②早期診断と早期隔離(Rapid Isolation) です。
発端者が少数の時点で強力に①、②を実践できた国のみが封じ込めに成功していると考えられます。

Contact Tracingとは?

疫学的手法における接触者追跡調査のことを示す。東アジア諸国の多くはSARS対策でコンタクトトレーシングの予行演習を行なっている下地があることで今回スムーズに導入されている。韓国では徹底的なコンタクトトレーシングを行うことでCOVID-19のアウトブレークの制圧につなげている。コンタクトトレーシングにより履行されるべき事項は、①接触起点の特定と感染経路(発端者の前向き/後向き方向)の特定、②感染暴露のリスク評価、③接触者の選別(濃厚接触者か、軽微接触者か)、④感染伝播抑制対策の設定である。

日本では”クラスター対策”と呼ばれているが、海外のコンタクトトレーシングと比較して特別な手法が不可されているわけでもなく法的強制力が及ばないこともあり、追跡調査が難航している地域がある。海外、国内を問わず、追跡調査に難点を抱える地域での感染制御率は華々しくない。

感染経路の特定と発端者の行動追跡は非常に重要で、これにより2次、3次感染者を拾い上げることで潜伏期(Incubation Period: IP)、 発病間隔(Serial Interval: SI)、感染性期間( Infectious Period: IfP)、世代時間(Generation Time: GT)、発病率(Attack Ratio: AR)、2次発病率(Secondary Clinical Attack Ratio)、基本再生産数(Basic Reproduction Number : Ro)などの感染対策の必須アイテムを掌握できることになる(下図参照: 参考文献2より引用)。

西浦 博, 稲葉 寿. 感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける定量的課題. 統計数理(2006); 56(2): p461-480より引用しました。

上記をパラメータとして感染症の数理モデルを構築し、微分で傾向を読み、積分で結果を推定していくのであるが、これに地理的条件や生活様式、人口密度などの様々な影響因子が加わってくるので現実にはSIRモデルのような単純な時間tのみの微分方程式とはならず、複雑な偏微分方程式の形で表されることになる(全区間で解けるとは限らない)。下図は分枝図に当てはめて数理モデルを考える際の1例である(参考文献3より引用)。

Hellewell J, Abbott S, et al. Feasibility of controlling COVID-19 outbreaks by isolation of cases and contacts. Lancet Glob Health 2020; 8: p488-p496. https://doi.org/10.1016/ S2214-109X(20)30074-7より引用しました。

SIの定義は解釈に難しいところがあり、単純なSIRモデル(→Coivd19 part2, 4のセクション参照)ではSI=GTと考えられる。SIの日本語訳は該当するものをネット検索できずpart4では世代時間(=GT)として解釈した。(西浦先生は”発病間隔”と定義されている)。厳密にはSI(発病間隔)は、初代感染源の発病から次世代感染者の発病までの時間を指す。一方GT(世代時間)は初代感染者の感染から次世代感染者の感染までの時間を示す。上図のserial intervalsと表記されている期間を見てみるとSI=GTと想定されていることがわかる。コンタクトトレーシングによりそれぞれの平均値が求まるとSIGTが区別できるようになるが、定義上はSIIP(潜伏期)に近似し、通常はSI≧IPであることが理解できる。

潜伏期に感染(= Pre-Symptomatic Transmission: PST)を起こしうるかどうかは非常に重大な事象であり、数理モデルにおける予測値(効率)に揺らぎ(低下)を生じる重大因子となる。PSTの有無によりSIのイメージが変わることを以下に示す(参考文献3より引用)。下図をみると、PSTが存在することでSIIPの関係が逆転してししまうこと(SI<IP)が理解できる。PSTの存在が今回のCOVOD-19感染症の流行制御を困難にしている根本原因であると考えられる。IPの状態にある感染者は、コンタクトトレーシングのルートマップ上に浮かんできた接触者以外は指摘不能である。コンタクトトレーシングで浮かんでこない未知の感染ルートによる感染者が50%を超えるという事象=制御不能状態に発展する可能性が高いことにつながることが想定できる(→see part5-2)。

Nishiura H, Linton NM, et al. Serial interval of novel coronavirus (COVID-19) infections. Int J Infect Dis. 2020;93:p284-p286. doi:10.1016/j. ijid.2020.02.0602.より引用しました。

これらのコンタクトトレーシングの詳細は、中国、韓国、台湾、シンガポールなどの東アジア各国から報告されていてPubmedでほとんど検索可能であった。制限解除により今後のトレーシングが困難になることなども想定して欧米を含めた各国が、GPS (phone-based global posisioning system)など利用したスマホアプリによる行動追跡を導入する方向に向かいつつあるようです。

Uploaded on June 6, 2020.

参考文献:
1. COVID-19 National Emergency Response Center, Epidemiology & Case Management Team, Korea Centers for Disease Control & Prevention. Contact transmission of COVID-19 in South Korea: Novel investigation techniques for tracing contacts  Osong Public Health Res Perspect 2020;11(1):p60 -p63
2. 西浦 博, 稲葉 寿. 感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける定量的課題. 統計数理 2006; 56(2): p461-p480
3. Hellewell J, Abbott S, et al. Feasibility of controlling COVID-19 outbreaks by isolation of cases and contacts. Lancet Glob Health 2020; 8: p488-p496. https://doi.org/10.1016/ S2214-109X(20)30074-7
4. NishiuraH, LintonNM, et al. Serial interval of novel coronavirus (COVID-19) infections. Int J Infect Dis. 2020;93:p284-p286. doi:10.1016/j. ijid.2020.02.0602.
5. Cheng HY, Jian SW, et al. Contact tracing assessment of covid-19 transmission dynamics in Taiwan and risk at different exposure periods before and after symptom onset. JAMA 2020: p1-p8.
6. Pung R, Chiew CJ, et al. Investigation of three clusters of COVID-19 in Singapore: implications for surveillance and response measures. Lancet 2020; 395: p1039-p1046. https://doi.org/10.1016/ S0140-6736(20)30528-6
7. COVID-19 digital apps need due diligence. Nature 2020; vol 580: p563

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