筋注手技そのものに伴う合併症としてSIRVA(Shoulder Injury Related to Vaccine Administration)またはUAIRVA(Upper Arm Injury Related to Vaccine Administration)がある。
SIRVA (Shoulder Injury Related to Vaccine Administration): ワクチン接種後肩関節障害
肩関節を覆う肩峰下滑液包(subacromial brusa)は三角筋の下層を肩峰下におおよそ三角筋の上部1/3付近までの伸びています。筋注部位があまりに三角筋上部の場合、この滑液包内にワクチンを注入してしまう場合があり滑液包内に強い炎症が生じることがあります。肩関節周囲炎(frozen shoulder: いわゆる五十肩)類似の症状を引き起こしその範囲は肩関節から上腕二頭筋腱鞘炎へと広範囲に及ぶため肩の可動域制限と高度の疼痛が数ヶ月にわたって持続することがあります(1, 2)。
SIRVAはワクチンの種類によらず三角筋に筋注する手技自体の合併症であるのでこれを生じにくい部位を選定する必要があります。
三角筋筋注に適切と考えられる刺入部位と刺入方向とは?
Nakajimaらは、三角筋至適筋注部位として下図の位置を推奨しています。b’の位置では、後上腕回旋動脈からも十分距離が確保されていると考えられます(3)。
刺入部位における皮下組織(≒皮下脂肪)の厚さに関しては、US計測ではb’の位置での垂直距離で男性で平均6.1mm、女性で平均9.8mmとされ確実な筋肉内投与を行うためにはさらに+5mm針を進めれば良いと考えられます。皮下組織の厚さは同部位のピンチングにより想定される厚みとほぼ同等との結果と報告されています。したがってb’より垂直に刺入して15mm前後の垂直刺入距離は大部分の成人に対する目安として良いでしょう。
従って三角筋筋注に際しては、三角筋上部の刺入を避け、前後の腋窩線を結ぶ高さで三角筋の前後中央(対面して左右で中心部)に位置する部位に垂直に刺入するのが最も安全らしいと言ます。
ワクチン接種を受けるにあたり当日は肩を完全に露出して頂きますので、上着の下はノースリーブシャツやタンクトップなどの三角筋を十分露出できる服装で来院下さいますようお願い申し上げます。
参考文献
1, Bancsi A, Houle SKD, et al. Getting it in the right spot: Shoulder injury related to vaccine administration (SIRVA) and other injection site events. CPJ/RPC 2018; 151(5): pp295-299
2. Rodrigues TC, Hidalgo PF, et al. Subacromial‐subdeltoid bursitis following COVID‐19 vaccination: a case of shoulder injury related to vaccine administration (SIRVA). Skeletal Radiology (2021) 50: pp 2293–2297
3. Nakajima Y, Mukai K, et al. Establishing a new appropriate intramuscular injection site in the deltoid muscle. Human Vaccines & Immunotherapeutics 2017; 9(13): pp2123-2129