Case24-8; COVID-19 vaccine part1: ①COVID-19のワクチンにはどんなものがあるか?②スパイクタンパクとRBD/RGDについて、③mRNAワクチンの構造、局所反応、副作用、効果について、④抗体依存性感染増強効果(ADE)について

(8)Antibody Dependent Enhancement(ADE)について

mRNAワクチン接種で、最も懸念される事象は抗体依存性感染増強効果(ADE: antibody-dependent enhancement)である。恐らくmRNAワクチンの積極的接種に懐疑的な医療関係者/研究者のほとんどは現行のmRNAワクチンがADEの引き金とならないことが実証されていないことを懸念している。現行のmRNAワクチンはPhase1レベル(100人規模)の治験で打ち切りになる様な重篤な副反応が報告されなかったことから異例の緊急回避的使用がFDAで認可された。COVID-19に対するmRNAワクチンがADEを誘発するかどうかは現在行われているphase3(30,000人規模)の臨床試験が終了し解析結果が出るまで証明する術はない(それには少なくともあと最低2年以上かかる)。ただし次にUSA, 英国が流行フェーズに入った時、ワクチン接種を受けた年齢層ばかりの重症化率が上昇するなら結果は自明とはなる。

ADEは、①産生された抗体が中和抗体としての機能を有さない場合、②産生された中和抗体が変異ウイルスに対して十分なウイルス排除効果を示さない場合、③一旦産生された十分量の抗体が数ヶ月経過ののち中途半端な量に減少した場合の3つの状態で生じうる。ADEはこの様な効果不十分な抗体が血中に存在することで、抗体がない初感染(自然感染)の場合より症状が重篤化する現象と定義される(6,7)。

過去に明らかにされたデングウイルスワクチン[DengVaxia (Sanofi Pasteur)]によるADEの機序は上記の②の機序による(図7)。デングウイルスに対する中和抗体(IgG抗体)が、その亜型に対して中和抗体として十分に作用しなかったことで不完全な中和抗体のFc部分を利用して細胞表面にFcγ受容体を発現している細胞(マクロファージや樹枝状細胞など)に次々とデングウイルスが侵入し増殖スピードが増強されたことで症状が重篤化した。

図7.デングウイルスワクチン接種により生じた抗体依存性感染増強効果. Haynes BF, Corey L, et al. Prospect for a safe COVID-19 vaccine. Sci Transl Med 2020(12): 1-12のFig. 1より引用

コロナウイルスは、一般には人に軽微な風邪症状を起こす程度の問題のないウイルスであるが、βコロナウイルスでは人に致死的な病原性を有する3種類(SARS-COV1, SARS-COV2, MERS)が確認されている。最近、βコロナウイルスは③の機序でもADEが起こりうることが示された(7)。

当然のことではあるが、中和抗体産生がウイルス暴露量を超えて十分にある状態では感染回避が起こる。逆に中和抗体がない場合は自然感染すると考えられる。しかしながら中途半端な力価で存在する場合ADEが生じうる。この様な懸念を払拭できていないこともあり、抗体価を維持する目的でmRNAワクチンの3ドーズ接種が検討されているのも事実である。我が国でも、高齢者投与終了後は一般投与へと年齢制限が緩和されていくと思われるが、重症化率の低い年齢層への投与に関しては十分に検討をすべきである。この年齢層の重症化率を上昇させるなら例え感染者数が減少してもワクチン投与の意義が本末転倒していることになる。ワクチンは重症化を防ぐことが本来の目的であり、疾患撲滅ではない。また、それさえ達成できれば医療現場が混乱することはない。

[まとめ] 希望的観測からmRNAワクチンがあたかも救世主の様に報道されてはいるが、mRNAワクチンの安全性と効果についてはまだ担保されてはいない。ADEや頻回投与による自己免疫性疾患誘発の懸念に関しては今のところはブラックボックスにある。しかしながら緊急回避的に使用する点では今のところ有効に見える(ただし、アウトブレーク制御にワクチン を投入するのは本来のワクチン使用ガイドラインにはない使用法である)。高齢者に対しての見切り発車的な投与は全世界的に致し方ないと考えられ容認される範疇にあると思われるが、55歳以下の本来重症化の少ない年齢層に関しては十分に検討する必要と投与後の厳重な経過監視を要すると考えられる。

Uploaded on May 25, 2021.

参考文献

1. Poland GA, Ovsyannikova IG, et al. SARS-CoV-2 Vaccine Development: Current Status. Mayo Clin Proc. 2020;95(10):2172-2188.
2. Hoffmann M, Weber HK, et al. SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor. Cell 2020(181): 2671-280
3. Makowski L, Sidford WO, et al. Biological and Clinical Consequences of Integrin Binding via a Rogue RGD Motif in the SARS CoV-2 Spike Protein. Viruses 2021(13); 146.
4. Verbeke R, Lentacker I, et al. The dawn of mRNA vaccines: The COVID-19 case. Journal of Controlled Release 333 (2021) 511–520
5. Polack FP, Thomas SJ, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med 2020. DOI: 10.1056/NEJMoa2034577
6. Haynes BF, Corey L, et al. Prospect for a safe COVID-19 vaccine. Sci Transl Med 2020(12): 1-12
7. Wan Y, Shang J, et al. Molecular Mechanism for Antibody-Dependent Enhancement of Coronavirus Entry. Journal of Virology 2020(94); 5. e02015-19

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