(6)mRNAワクチン投与に伴う一般的副反応について
局注部位の反応メカニズムを考えた上で生じうる副反応の大部分は想定できるが、これにアナフィラキシーや自己免疫誘発による未知の副反応が加わると考えられる。BNT162b2のフェーズ2/3試験では、HIV感染症、B, C型肝炎の患者は治験対象から除外されているので注意が必要である(5)。大部分は軽度〜中等度の副反応であり、全身倦怠感、頭痛、発熱、悪寒、関節痛、筋痛、下痢などであった。疼痛は55歳以上の高齢者で80%前後に認められている。全身倦怠感や頭痛などの全身性の副反応は16〜55歳の年代に多く認められている。38℃以上の熱発は若年者の16%、高齢者の11%に認められている。
日本での医療従事者を対象とするBNT162b2(コミナティー)30μg筋注2回接種(21日間隔)による報告では、37.5℃以上の発熱は38.4%、局注部位の反応92%(発赤16.3%、疼痛90.8%、腫脹14.3%、硬結10.3%、熱感19.2%)、全身症状76.3%(倦怠感69.6%、頭痛53.7%、鼻汁14.6%)と報告されている(厚労省 副反応検討部会および安全対策調査会合同会議(R3.4.30. 資料4)。また、アナフィラキシー疑いとして633件が報告され、アナフィラキシーであると医学的に確定された件数は94件(37件/100万回接種)であった。アナフィラキシーによる死亡症例報告はなし。死亡症例に関しての因果関係調査は現在進行中の様である。
インフルエンザワクチンに比べて副反応は強めに出る様なので高齢者はそこそに覚悟して接種を受けていただきたいと思う。基本的に適応外となる症例は少ないと考えられるが、くれぐれもワクチンによる発熱や全身倦怠感で持病の悪化から本末転倒した結果を招かない様注意いただきたいと思う。
(7)mRNAワクチンの効果とその解釈
mRNAワクチンで誘導される抗体は、スパイク蛋白に対するIgG抗体であり、その大部分はスパイク蛋白のRBDに対する抗体である。RBDに対する抗体は、COVID-19の中和抗体(ウイルス排除抗体)として作用し、抗体価がある程度以上高く維持されている場合は感染予防(発病阻止)効果を示す。BNT162b1, b2, mRNA-1273ともに規定のワクチン2回接種後7日以上経過した対象では90%以上の感染予防(発病阻止)効果があると報告されている。
現在最も汎用されているファイザー社製のBNT162b2に関する有効性に関して査読が終了している論文よりチェックしてみた。
少し解りにくいのでこれを罹患率と罹患率比を用いて書き換えてみる。表1の上段の治験以前にCOVID-19感染既往がない対象者のグループを疫学統計の基本に忠実に書き下してみたものが表2である。実際の参加者の実数、新規COVID-19発症患者数は表1のN=〜から拾ってきた。このグループでの対象患者の観測期間は、0〜112日/365日の総計Σ time periods( i=1〜17,411または、17,511)として算出されている(単位はperson・ years/1000)のでこれを1000倍してperson・ yearsに書き直した。またこの観察期間に新規COVID19患者は8人(偽薬では162人)が発生している。罹患率IR=新規COV発症患者数/Σ time periodsであるのでそれぞれ、IR1=A/L1、IR0=B/L0、罹患率比IRR=IR1/IR0、ワクチン有効率(%)=100 x (1-IRR)で算出できる。実際に計算してみると表2が埋まった。
感染既往がないグループ | 参加者の総数 | 実際に観測期間中に追えた参加者の総数 | 新規COV-19 発生患者数 | Σ time periods | 罹患率(IR) |
BNT162b2 2回接種者 | 18,198 | 17,411 | 8 =A | 2214 = L1 | 0.0036 |
生理食塩水 2回接種者 | 21,728 | 17,511 | 162= B | 2222 = L0 | 0.0729 |
差分(絶対値) | 3530 | 100 | 154 | 8 | 0.0693 |
罹患率比IRR | 0.0493 | ||||
有効率(%) | 95.07 |
罹患率は観察期間の加重平均となっているのでBNT接種群と偽薬接種群では20倍近い罹患状況の解離があることがわかる。ここを単純な算術平均の如く新規COV-19発生患者数を参加者総数で除法する、いわゆる一点有病率の様な計算を行うと感染回避率の差分が1%以下であるという様な誤った結論を導いてしまうので解釈には注意が必要である。観察期間でカウントしている治験者数は時間tの連続関数であることを無視してはならない(数値積分が必要である)。ただし、ワクチン有効率に関しては、単純な除法として算出したワクチン有効率:154/162 x 100=95%とは少し意味合いは異なるがΣ time periodsの差分が8しかないので結果的にはほぼ同値で表されている。下の段も同様に計算すると有効率94.6%が得られる。
BNT162b2の有効性(発症予防効果)は2回接種終了後7日~直近の時点で95%と見積もられるが、累積罹患率のグラフを見てみるとBNT162b2の1回接種後14日以降は新規患者の発症はほとんど認められていないことが見て取れる。また、少なくとも2回接種後2ヶ月はその効果が温存されると考えられる(図6)。
しかしながら、抗体価の大きさが感染防護能の指標とはならないことが難点であり、どれだけ抗体価があれば安全であるのかが解明されていないのでワクチン投与したから感染しないという保証は全くない。重要なのはワクチン を打った後のCOVID-19に対する自己感染防止対策の再認識である。その意味では少々副反応が強めの方が再自覚には良いモチベーションを与えるのかもしれない。これは逆にワクチン効果を過大評価させる大きなバイアスであるとも言える。