Case 24-6; COVID-19 AT part3: 空間における飛沫(エアロゾル)の描く軌跡を考える際、体温から受け取る吸熱効果(thermal effect)を考慮する必要がある。感染者との距離が72cm以内になるとマスクの予防効果は著しく低下すると考えらる。また、待合室や商業スペースにおいてバイオエアロゾル感染のリスクを最小限に抑える空調/換気ルートの確保が必要である。

②咳で呼出されたバイオエアロゾルは、体温による熱を吸収し上昇するプルームを生じる(Thermal effect)。

thermal plume
流速ベクトルと飛沫量分画の軌跡(咳嗽後1秒以後の変化): Yana Y, et al. Thermal effect of human body on cough droplets evaporation and dispersion in an enclosed space. Building and Environment 2019; 148: pp96–pp106より引用

咳により呼出された飛沫(エアロゾル)の拡散方向は、最初は呼気ジェットの方向に従うが、人間の体温により生じる熱エネルギーが加わることで上方に向かうプルームが生じる。thermal effectが加わることにより、一般に想像される自明の方向とは大きく異なる成分加わってくることを十分に認識する必要がある。Fig.6は、最も一般的なクリニックや店舗の待合室、オフィスとして汎用されている閉鎖空間体積(31.2m*3 ( 4m x 2.6m x 3m; r(x,y,z), 室温25℃, 相対湿度50%)を想定してコンピュータシミュレートされている(ちなみに設計図から計算すると当院の待合室の体積は47m*3であった)。飛沫リリースの角度は、水平面(y-z平面)に対して上口唇から-15°、下口唇から-40°の範囲帯で設定されていた。上段(a)はエアロゾルの飛沫の速度ベクトルの軌跡、(c)は飛沫ボリュームの分画を描写したものである。咳により呼出されたエアロゾルは1秒後にはすでに天井に向かう方向の速度ベクトルが主体となっていて、天井に到達すると前後左右方向に天井壁を伝う様に拡散していくことがわかる。

③Thermal effectを考慮したシールドの設置と空調の気流方向の設定が必要と考えられ、不適切な方向へ気流を導くことは何も行わないことよりもエアロゾル感染を拡大を助長する可能性が懸念される。

咳ジェットと体温により生じた上昇プルーム: Yana Y, et al. Thermal effect of human body on cough droplets evaporation and dispersion in an enclosed space. Building and Environment 2019; 148: pp96–pp106より引用

最もthermal plumeの影響を理解しやすい図としてFig.5をpick upした。この図は航空機や飲食店での対面方向以外の感染成立の理解を容易にする。目標温度が設定された自動空調システム(最近の省エネ設定のエアコンは全てこのタイプと考えられる)は間欠的に陽圧気流を生み出しているが、通常の設置位置は天井または天井に近い壁面がほとんどと思われる。これはthermal plumeで天井に達したバイオエアロゾルを上から前後左右の空間へ放散させることを助長する。アクリルシールドまたは塩化ビニルシールドを設置しているクリニックや店舗はほとんどが改修費用が節約できる卓上または天井から吊す形の設置形態を採用していると考えられる。これは対面飛沫噴霧対策には非常に大きな効果を発揮していると考えられる。ただしこれはせいぜい数分以内の短時間の最小会話に対しての直面方向に対しての防御効果としてである。これに関しては、対面者が双方適切にマスクを装着していればマスクをしていない場合の50%以下に抑えられ、これにより感染リスクは双方で0.5×0.5=0.25(25%)以下に抑えられることになる。この状態で1m以上の距離が確保されていれば感染リスクは1〜1.5%位まで抑えれらているのでシールドの効果は安心への貢献度は非常に高いが双方がマスクをしている時点で残りの高々1%程度の隙間を埋めにいく貢献度であると考えられる。双方がマスクをしていれば基本的に濃厚接触者にならないとう保健所の理屈は両者の同一スペース滞在時間が10分以内(普通呼吸下)であればバイオエアロゾル産生量は、相手が標準的なErq(≒20q/hの)感染者の場合、咳1回分程度の拡散量と見積もられることに基づくと考えられる。

以上からコンビニや商店などの数分の立ち寄りでは通常であればマスクをしている限り感染は極めて生じにくいはずである。接触感染リスクの当初の見積もりが過大評価されすぎていたことに誤りがあり実際のところ最近コンビニや雑貨店の入店前にアルコール消毒をしている人をほとんど見かけないし、それでも店員が次々感染してコンビニがどんどん閉鎖に追い込まれる様なことは起こっていない。これは全国民が実感している等身大のリスク、すなわち”接触感染はそんなには起こらないでしょう?” というフィーリング通りの低いリスクであることを裏付けている。当然ながら、店側は手指消毒は徹底してはいるはずではあるが。

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