Case 24-6; COVID-19 AT part3: 空間における飛沫(エアロゾル)の描く軌跡を考える際、体温から受け取る吸熱効果(thermal effect)を考慮する必要がある。感染者との距離が72cm以内になるとマスクの予防効果は著しく低下すると考えらる。また、待合室や商業スペースにおいてバイオエアロゾル感染のリスクを最小限に抑える空調/換気ルートの確保が必要である。

バイオエアロゾル感染において、Wells-Rileyの方程式による感染リスクの評価は閉鎖空間全体が均一な状態量で表現される際に汎用できるが、近接効果(感染者と感受性者の距離が非常に近い場合)や空間内で気流や感染性量子の濃度が変化する様な場合を考慮していない。一般に感染者との距離が50cm以内まで近接する医療従事者や鮨詰め状態の満員電車、クラブハウス、居酒屋等では飛沫ベクトルの描く軌跡がどの様になっているかを考えることは今後のバイオエアロゾル感染対策の理解に役に立つと考えられる。Pubmedで検索し得た範囲で若干の文献的考察を加えてUPDATEした。

①咳嗽後のバイオエアロゾルを含む気流は、咳嗽後0.25秒で口から 50cm離れた位置に到達し、咳によるジェット流速の最大値は22m/sに及ぶ。咳嗽終了時には気流速は1.2m/sまで落ちるが口から0.72m直線距離で離れた位置まで到達する。

以下の添付図は参考文献1より抜粋、引用した。

下図Fig.4は、マスクなしで安静着席状態で1回咳嗽をした際に生じる気流の速度ベクトルを模式化している(1)。咳は0.5秒後に終了するシナリオで計算してあり、飛沫量分画がカラー表示されている。咳により呼出される気流は5%の水分を含んでいるため強大な蒸気流を形成し短軸方向にも膨らみを持ったプルームを形成しているのが分かる。各サイズの飛沫の軌跡が周辺では膨らみ等高線を形成している。グラジエント(勾配)の向きはこの等高線に垂直な方向であることを考えると咳のジェット流の射程内(気流方向で0.72m以内)に近づくとマスクの上下(接平面方向)から飛沫が入り込んでくる状況が想定される。以上を考慮するといわゆる介助や聴診などの際の”医療従事者距離”においてはマスクではバイオエアロゾル の吸入を十分阻止できない状況が想定される。医療従事者はこの距離にできるだけ入らない様にする必要があると考えられるが、現実的にはこれでは介助/診察/治療は極めて困難である。これを考えるとシュノーケルの様なものを用いて患者の呼出したジェット流から離れた位置の空気を取りこむか、宇宙服の様に完全に換気分離しなければ長時間の近接を強いられる医療従事者の感染を防御するのは難しいと思われる。ERq値の大きい患者では感染リスクもその分増大すると考えられる。この距離のベクトル場に不用意に侵入することは危険である

咳ジェットの流速ベクトルと飛沫のボリュームの経時的変化: Yana Y, et al. Thermal effect of human body on cough droplets evaporation and dispersion in an enclosed space. Building and Environment 2019; 148: pp96–pp106より引用

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