Case24-8; COVID-19 vaccine part6 : mRNAワクチン(BNT162b2)の感染予防効果と重症化予防効果について:●イスラエル(カタール)の報告から得られたリアルワールドでのmRNAワクチンの実力●ブースター接種で期待できる効果とは?●オミクロン株で懸念される事象?

③ブースター接種で期待できる効果

イスラエルにおいて2021.9.02以前にBNT162b2mRNAワクチンの規定2回接種完了し少なくとも5ヶ月以上経過している60歳以上の年齢層総数は、1,186,779人(このうち13,478人感染)に及んでいた(7)。このうち1,137,804人が2021.7.30以降の3回目のブースター接種キャンペーンに参加している。ブレークスルー感染の発生件数は8.31時点での集計、重症化件数の集計は8.26の時点の集計でブースター接種のワクチン効果を評価している。図1, 4で確認できるが、8月末の時点で10,000人/日以上のPCR陽性の新規発生患者と600人を超える重症化症例が存在している。ファイザー社の報告によると試験管内の実験値では、ブースター接種により達成される中和抗体力価は2ドーズの標準接種完了後に比べ10倍大きいと報告されている(8)。しかしながらこれが、接種後すぐに獲得できるわけではないしまた、リアルワールドにそのまま反映されることはない。図9にイスラエルにおけるブースター接種後のリアルワールドでの感染予防効果を示してあるが、ブースター接種完了後の十分な抗体増幅には最低7日かかると考えれ、非ブースターグループに対して5倍以上の感染予防効果は接種後11日以降で認められる(7)。短期間に限定すると新規発生患者数を減少させることは可能だと思われるが、このキャンペーン開始の時点では既に公共施設でのマスク着用義務化が再開されているのでブースターグループは特に警戒心が高まって感染に対するガードを再補強している可能性がある。本来のワクチン単独寄与分はもう少し低いと考えるのが妥当であろう。しかしながら重症患者の発生速度を鈍化させるにはそこそこに役に立つのではないかと考えられる。

図9. ポアソン回帰に基づくブースト接種後のfactor値を用いたワクチン(感染予防)効果の経時推移(横軸単位は1日). factor=1(効果なし)のラインが点線で示されている。factor=10は、非ブーストグループの感染率が仮に50%であった時、ブーストを受けたグループの感染率が50/10=5%に軽減されることを示している。Bar-On YM, et al. Protection of BNT162b2 vaccine booster against Covid-19 in Israel. N Engl J Med 2021;385:1393-400. DOI: 10.1056/NEJMoa2114255のFigure 2より引用

以上を考慮して接種完了後12日以後での感染予防効果/重症化予防効果を検証し報告しているのが下表1である(7)。すなわちこのレポートは幾何平均比較によるブースター接種により得られるワクチン効果の極大値を表現していると考えられる。

表1. ブースト接種を受けたグループと受けていないグループにおけるブレークスルー感染の新規発生患者数、重症化症例の発生件数の比較
交絡因子を考慮しない場合、観察期間において新規発症抑制効果に関しては、罹患率IR=新規COV発症患者数/Σ time periodsであるのでそれぞれ、IRnb=4439/5,193,825=8.546 x 10*-4、IRb=934/10.603,410=8.808x 10*-5、罹患率比IRR=IRb/IRnb=1.030x 10*-1、ワクチン有効率(%)=100 x (1-IRR)=89.70となる。
重症化防止に関しては、IRsnb=294/4,574,439=6.427x 10*-5、IRsb=29/6,265,361=4.628x 10*-6、重症罹患率比IRR=IRsb/IRsnb=7.200x 10*-2、ワクチン有効率(%)=100 x (1-IRR)=92.80となる。
Bar-On YM, et al. Protection of BNT162b2 vaccine booster against Covid-19 in Israel. N Engl J Med 2021;385:1393-400. DOI: 10.1056/NEJMoa2114255のTable2より引用

このレポートによると、交絡因子を補正するとブースター接種を行う事によりδ+によるブレークスルー感染のリスクを直近で約1/11に、重症化リスクを約1/20に減少させる効果があると報告されている。しかしながらδ+に対するワクチン有効率はピーク時の短期推計であってもα、β株に対する2ドーズ接種効果(95%)を下回っていることに注意が必要である。このことは不安要因でもある。このブースト接種による感染予防効果は、以後は2回接種後同様に効果が経時減衰することが予想されるので、接種のタイミングにどの程度段差をつけるかで全体のピークアウトを迎える事ができるかどうかという問題に少なからず抵触してくる印象を受ける。

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