②イスラエル(カタール)の報告から得られたリアルワールドでのmRNAワクチンの実力
イスラエルは2020.12月から世界に先駆けてBNT162b2 mRNAワクチン(ファイザー)段階接種を開始した。これによりα株パンデミックはいったん収束したかの如く見えた。ワクチンパス(グリーパス)の運用と屋内外でのマスク着用規制を解除(6/1)したところ2週間後から急激な感染拡大を迎えた(3)。4.03の時点で65歳以上の高齢者のmRNAワクチン2回接種はすでに90%が完了し、国民全体でも72.1%、さらに9.07には国民全体でも80%以上が2回接種を完了している。下図4は6/1以降の感染者数を示している(5)。1ヶ月以上後から急激に感染者数と重症患者数が増加していることに注意する必要がある。この様に感染者の総数が相当数増えたところで重症患者数も急増してくる。これは我が国でも再三経験した事実である。
下図5は、ワクチン2回接種完了者(full vaccination)における経時別感染者数を年齢層別に示してある(必然的に大部分がブレークスルー感染となる)(5)。リアルワールドでは接種完了後2ヶ月の最強状態でも相当数のブレークスルー感染が生じる事がわかる。いくらワクチン武装しても公衆衛生対策を怠れば容易に感染する事が見て取れる。さらに6ヶ月経過すると未接種者に近い感染者数が発生している事もわかる。このワクチンの感染に対する効力は6ヶ月後には帳消しになると考えて良いだろう。実数でみると高齢者ではどのくらい差が出るのかわからないが、ワクチン未接種者とピーク時の免疫武装者の比較で1000人あたり感染者数の差がたったの3人程度しかないことは肝に命じておくべきであろう。
以上の結果をワクチン効果として計算式に基づき反映したものが図6である(6)。臨床試験では、当然臨床試験に対する理解力も公衆衛生意識も高い方がエントリーされるのが必然(セレクションバイアスとなる)である故、リアルワールドでは多くの場合成績が落ちたり、想定外の有害事象が生じる事があるのは稀ではないが、このmRNAワクチンにおいても想像以上に感染予防効果が小さい様に感じられる。拡大投影されていたリップサービスに対する都合の良い思い込みが、実際の感染予防効果を更に低下させるバイアスとして働きパンデミック収束への道のりを長引かせている可能性は否めない。
次に重症化予防に関して見てみると発生件数の経時推移も感染予防効果同様の傾向を示している事が下図7からわかる(5)。60歳以下のグループではワクチン接種の有無にかかわらずほとんど重症化しないのは既に周知の事実である。公衆衛生対策がきちんとなされていればこの年齢層のリスクはさらに下がっていた可能性は否めない。これに対し高齢グループでは経過時間に比例して重症件数の増加が認められる。既に高齢グループの未接種対象が存在しないためどの程度この高リスクグループでリスク回避が達成されているのかは感染予防効果同様に評価は困難である。
以上を全体で重症化予防効果として計算式に基づき反映したものが下図8である(6)。4ヶ月経過した時点から分散値が大きくなり不安定感が増してくるが、実質的にこのグラフは高齢者の重症化予防効果の減衰を反映したものであると考えられる。
以上のレポートを見てみると、感染防止には公衆衛生対策の併用、重症化に関してはいつまでも高齢者問題がついて回る事がわかる。現在日本ではハイリスク高齢者は施設内でロックダウン、それ以外は厳重にマスク着用の遵守とsocial distancingにより自主的なパーソナルロックダウンがなされている事でワクチン効果の低減を補充する以上の実効値が維持されているとも考えられる。