③ BTI症例の年齢、重症度分布に関して
BTI症例に関しては、mRNAワクチンの先行接種が行われていたイスラエル(カタール)、UK、 USA (CDC及びワシントンDH)が最近行ったレポートをネットで閲覧できるがいずれにおいても無症候症例の拾い上げは十分には行われていない(これはワクチン未接種においても同じことは言える)。各国、ワクチン未接種者とワクチン接種者の発症状況、入院率(≒重症度)、死亡率に関して監視を怠ってはいないのは抗体依存性感染増強効果(ADE)とBTIによる新たな変異株出現のリスクに懸念があるからと考えられる。
ワクチン接種者に関しては、①1回目接種後21日未満、②1回目接種後21日〜2回目接種後14日未満③2回目接種後14日以後の期間に詳細に分類して監視されており、BTI症例は可能な限りRNAシークエンス(アミノ酸変異)の解析を行う方針とされている。
(1) Buttらが報告したカタールにおける期間2020年12/23〜2021年3/28に発症したBTI患者456症例と条件を一致させた456症例のmRNAワクチン未接種からの感染発症症例の重症度、死亡率の比較検討によると、ワクチン接種者の48症例(10.5%)、未接種者の121症例(26.5%)に入院または人工呼吸管理、死亡を含む重症化が認められた(3)。
ハザード比(HR)による重症化の最大要因は年齢であり40歳以上では重症化率が増大していた(40-60 ys; HR=2.32, 60-70 ys; HR=4.34, 70 ys; < HR=5.43)。またワクチン未接種による影響はHR=2.84であった。ワクチン接種の有無に関わらず、高齢者は常にハイリスクであると言える(表2参照)。
ウイルス変異解析に関しては触れられていないが、時期的にイスラエルで流行しているウイルス株の大部分はWT株と考えられ、このレポートはWTに関するBTIのリスク評価として一つの指標となるデータである。
(2) UKの技術短報(technical brief)は、weeklyにデルタ株に関して自然感染(ワクチン未接種者)とワクチン接種者の感染状況を報告している(最新版はtechnical brief 21)。死亡者数が記載されているのは、今のところtechnicl brief 16のみで2021年2/1〜6/14までの集計がアップしてある(6)。
表3を見てみるとワクチン接種により発症率は大きく低下している。これはワクチンの添付文書に記載されている効能が実効値として表現されたものと考えて良いであろう。すなわちワクチンの発症予防効果が十分期待できる。しかしながらこのデータで注目すべき点は、ワクチン未接種者の死亡率(一点死亡率)=34/35521≒0.10%に対し、2回接種後14日以後の死亡率=26/4087=0.69%であり一見BTI患者の方が予後が増悪しているように見えることである。
この理由の1つとしてUKでのワクチン接種政策の結果、現在ワクチン未接種者の年齢層が20代以下の若年者が多くを占めると考えらえこの年齢層はそもそも死亡リスクが極端に低いことが挙がる(これに対してワクチン接種済みの年齢層は高いし、元々死亡リスクもかなり高いと考えられる)。もう一つはBTI患者の発生件数の母数が自然感染の件数の1/9と小さいことが挙がる。年齢構成別の発症者/死亡者のデータがないと現時点で結論は出せないが、このbrief 16にあるようにワクチン誘導抗体存在下での感染、すなわちBTIを生じると死亡率が上昇するような傾向が明白となるなら無視できないレベルのADEの関与という事象を疑うに値し、ワクチン頻回接種は単に蓋をしておきたい様な問題を先延ばししているだけともとれる。なぜなら接種完遂者も3ヶ月以上経過すると抗体減少によりいずれBTIを生じうることが推定されるからである。ただしイギリスではmRNAワクチン接種とDNAワクチン接種が混在していることは注意しておく必要がある。
(3) CDCによる8/11のレポートによると、BTI入院8,054症例の74%は65歳以上で、20%の死亡率と報告されている。25%に当たる1,883症例は無症候性であった。1587の死亡症例のうち341症例(21%)は無症候性からの死亡または関連死でないものを含む(7)。
(4) ワシントン州の報告(2021年1/17〜7/31集計)には年齢層別のBTI発症率が添付されている(8)。これによると20〜79歳まで 14歳刻みで報告されているがこの年齢層では均等に22%前後の発症を認め、高齢者と19歳以下での発症が少ない。若年の発症率が低いのはワクチン接種率が低いことによると考えられるが、80歳以上の年齢層での発症数が少ないのはこの年齢層が既にコロナ感染の既往者(死亡者を含む)の占める割合が多い可能性がありうるが文中には理由の記載はなされていない。
男女比はやや女性に多い傾向がるが、女性の方がワクチン接種者が多かった可能性を考慮してもBTIに関しては女性は男性よりもハイリスクであると結論している。
5879症例のうち、66人が死亡(≒1.1%)、18%にあたる1078症例が無症候性であった。残りの4801症例のうち88%は症候性であり、7%が入院した。
USAの入院基準は国民皆保険でないため日本のようにダイレクトに重症度を反映したものではない可能性があるが、入院患者から66例の死亡が全て生じたとは考えにくい(もしそうなら入院患者の約20%が死亡に至ったことになる)。ただしこのデータに変異解析の情報は添付されていないのでどの変異株に対するBTIのリスクを評価しているのかは不明で混合評価となっているものと考えられる。
(5) 2021年、7/3~7/17にマサチューセッツで開催された大規模なサマーイベントに伴い469症例のSARS-CoV2アウトブレークが発生した(図2参照)。このうち74%はワクチン2回接種完遂後のBTIであった。133症例のウイルスRNA塩基配列の解析が行われ119症例(89%)がB.1.617.2(δ)の変異株感染であった(5)。
入院に至った患者は5症例あり、このうち4症例はBTIであった。死亡症例はなかった。当時、マサチューセッツの住民の69%がワクチン接種を完了していた。この様に接種完了が行き渡ってくるとBTI症例が増加することが想定されるが未接種と接種完了者の間で均等に感染が生じていることはmRNAワクチンでは、δ変異株に対しての感染予防効果はあまり期待できないと解釈すべきであろう。
一方、Abu-Raddadらによるイスラエル(カタール)の集計では、SARS-CoV2自然感染(=ワクチン未接種状態での感染)症例が、SARS-CoV2に再感染するリスクはおよそ0.02〜0.03%、再感染の発生率は0.36〜1.06/10,000(人・週)と報告されている(9)。上記は市中感染率が1%/日以上となった流行のピーク時の状態においても同様の状態で、自然感染から治癒した症例は他の報告でも散見される様に感染後3ヶ月以上高い抗体価が維持されていた(9,10)。