Acute Colonic Diverticulitis (ACD): 急性大腸憩室炎
<Part1: 左側結腸憩室炎(LCD: Leftsided Colonic Diverticulits)>
ACDは大腸(結腸)の憩室に炎症が生じることで生じる急性炎症性疾患であり急患外来での遭遇頻度は比較的高い疾患と考えられるが、その治療方針に関しては統一的見解がなく担当主治医の判断に委ねられているのが現状である。また年齢、人種による発症部位に隔たりが認められ西洋人ではほとんどの症例が左側結腸憩室炎(LCD: Left sided colonic diverticulits)であり、アジア人/黒人では右側結腸憩室炎(RCD: right sided colonic diverticulitus)が多く認められる特徴がある。左側憩室炎は年長者になるほど発症頻度が増すが、近年の追跡研究では憩室炎発症に至る確率は、多発憩室を保有する症例の4%程度に留まる。食生活の変化などの影響から、近年では若年者においても左側憩室炎の発症率の増加が認められている。超音波検査(USG)とCT検査は確定診断を下すための優れた画像検査法であり、臨床症状と血液検査のみから下された暫定診断の誤りを37%是正する力量がある。CRP(C-reactive protein)の値が15mg/dL以上あると憩室炎に何らかの合併症を伴っている可能性が高いと考えられている。
WSES(World Society of Emergency Surgery )は、2015年に急性左側結腸憩室炎(acute left sided colonic diverticulitus:ALCD)のCT所見に基づく新分類を提案している。これによると、ALCDをまず合併症を伴う憩室炎(complicated)と合併症を伴わない憩室炎(uncomplicated)の2つのグループに分類し、合併症を伴う憩室炎をさらに4つのカテゴリーに分類をしている。
Uncomplicated |
Stage 0 : Diverticula, thickening of the colonic wall or increased density of the pericolic fat ( 憩室存在部位の結腸壁の肥厚または、結腸周囲脂肪織濃度の上昇) |
Complicated |
Stage 1a: Pericolic air bubbles or little pericolic fluid without abscess (within 5 cm from inflamed bowel segment) (炎症憩室の存在する結腸から5cm以内の周囲脂肪織の気泡や少量の液体貯留を認めるが膿瘍を伴わないもの) |
Stage 1b: Abscess ≤ 4 cm (φ4cm以下の膿瘍形成を認めるもの) |
Stage 2a: Abscess > 4 cm (φ4cmより大きい膿瘍を形成しているもの) |
Stage 2b: Distant air (>5 cm from inflamed bowel segment) (炎症憩室の存在する結腸から5cm以上離れた部位に気泡を認めるもの) |
基本的に右側憩室炎は外来保存的治療可能、左側憩室炎は外科処置を必要とする可能性が高いと考えられていることから入院治療というのが暗黙のルールとして認識されているのではないかと考えますが、WSESのガイドラインにより方向性が統一されつつあリます。
WSESでは、左側結腸憩室炎に関して合併症のない憩室炎では、経過観察(腸管安静)または、必要あれば抗生剤経口投与による外来治療を、合併症を伴う憩室炎症例に対しては抗生剤投与は必須であるがStage Ibまでは抗生剤単独治療、Stage2a以上は経皮ドレナージを含む外科処置の追加を推奨している、
当院での症例を新分類で提示する。
Stage 0:
[CC]発熱と左下腹部痛
[PE]踵おろし試験陽性
[BC]WBC 8000(Neu 82%)/μL, CRP 2.57mg/dL
S状結腸に憩室が多発しているがこのうち左側の下行結腸に近い部位に炎症憩室を認め周囲脂肪織濃度の軽度上昇と腸管壁の軽度肥厚を認める。外来にて抗生剤経口投与で加療、完治する。
Stage1a:
[CC]体動に伴う下腹部痛
[PE]踵おろし試験陽性
[BC]WBC 11800(Neu66.4%)/μL, CRP 12.1 mg/dL。
S状結腸に多発憩室を認め、炎症憩室の周囲脂肪織濃度の上昇と結腸周囲に気泡を認める。紹介入院としたが保存的治療(絶食、抗生剤の経静脈的投与)で完治した。
Stage1b :
高齢者の回盲部痛症例である。
[BC] WBC 7400(Neu 76.2%)/μL, CRP 034mg/dL.と画像所見との乖離を認めた。S状結腸が大きく右側に蛇行しており、その屈曲部位と正中より後方に約φ2-3cm大の膿瘍形成を2つ認める。宿便により、硬便が高吸収値として描出されている。紹介入院としたが保存的治療で完治した。
Stage 2a:
[CC]下腹部痛、排便障害
[BC] WBC 13800(Neu 71.2%)/μL, CRP 17.2 mg/dL.
[ID} S状結腸壁より外側に突出するφ43mm大の膿瘍形成を認める。遊離ガスは指摘できない。紹介入院としたが保存的治療で完治した。
Uploaded on March 22, 2019.
参考文献:
1.Anne FP, Tope OK, et al.Distribution and characteristics of colonic diverticula in a united states screening population. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016 ; 14(7): p980–985.e1. DOI:10.1016/j.cgh.2016.01.020.
2.Akira M, Masayuki T, et al. Changes in the cinical features and long-term outcomes of colonic diverticulitis in Japanese patients. Intern Med Advance Publication 2017. DOI: 10.2169/internalmedicine.7710-16
3.Massimo S, Fausto C, et al. WSES Guidelines for the management of acute left sided colonic diverticulitis in the emergency setting. World J Emerg Surg 2016; 11(37): p1-15, DOI 10.1186/s13017-016-0095-0
4.Mizuki A, Nagata H, Tatemichi M, et al. The out-patient manage- ment of patients with acute mild-to-moderate colonic diverticulitis. Aliment Pharmacol Ther 2005; 21: p889-897
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