左心カテーテル検査により実測値で得られた左室圧P(t)をX軸(横軸)に、その時間微分であるdP/dtを数値計算した値をY軸(縦軸)に位相平面(Phase Plane: PP)を作成すると下記のようなグラフとなる(参考文献❶のFig. 12より引用)。これは左室内圧最大値の時刻でdp/dt曲線を縦軸対称に折り返して時間軸を左室圧P(t)に置換した形で表示されている。PPの上半分は、P軸正方向に左室内圧が漸増してくる際の内圧変化率を示し、下半分はP軸逆方向に左室内圧が漸減してくる状態を示していることになる。上半分は左室の収縮期に相当し、dp/dt最小値〜Max dp/dtの時点までが等容性収縮期に相当し(Max dp/dt時がほぼA弁解放時)、それより右側が急速駆出期、下半分で左室圧Max〜P(t1)までが減速駆出期に、それより原点方向が等容性弛緩期に相当する。t1の時刻でA弁が閉鎖するが、Po(t=o)のとき―dp/dtは負の最大値を示す(Max ―dp/dt)。Max ―dp/dt以後の等容性収縮期の内圧-dp/dt下降曲線はexponential curb(指数関数)に従うことが証明されている。左下図で直線部部分の下方に斜線で示された領域の面積をpoーdの距離で除した値が、A弁閉鎖直前に心蔵から駆出された高速血流の運動量(moment)により引き起こされた内圧減少分(圧格差)に相当すると考えられこれをIF(*慣性力)と定義している。斜線面積の分だけ、左心室が過剰陰圧されることで平衡容積より小さくなると考えられ、左室弾性反跳(Elastic Recoil: ER)という概念に結びついている。ERは左房から左室への血液流入を補助する役目があると考えらえ、この引き込み現象は左室サクション(LV suction: LVS)と呼ばれている。LVSは拡張早期の左房から心尖部方向に向かう圧格差を計測することで評価される。これはどうやら、最近Mモードカラードプラ画像から数値積分を行うことで計算できるらしい。
左図で、最小二乗法により-dp/dt曲線に最も近接する直線を引いたものが直線baであり、区間[ab]では負の左室圧-左室圧時間微分曲線はこの直線勾配に近似している(等容性弛緩期)。区間[ab]における直線の勾配(-dp/dtの変化率)をC1(定数)とおくとx=P(t), y=-dx/dtにおいてdy/dx=C1であるのでdy/dt=-C1y のパターンの1階微分方程式( y=exp(-C1t))で表すことができる。したがってdp/dtは指数関数曲線に従い減衰すると考えられる。
左図区間[ab]において測定結果より
近似式:dp/dt=ーkP(t)+C (k>0, k,Cは定数)と表すことができる(等容性弛緩期の左室内圧の低下時定数τを用いるとτ=1/kと表せるらしい)。
これに従って左室圧が減衰するのであれば、上記より予測値のP'(t2)はもう少しP(t2)より大きな値をとるはずである(P'(t2)>P(t2))。これはy=exとそのテイラー展開の1次の項であるy=1+xを考えるとex>1+xでありイメージしやすい。