①COVID19の感染の拡散形態とδ株の影響
SARS-CoV2(COVID19)コロナウイルスは、βコロナウイルスに属しSARS-CoV1, MERSと共に人に対して脅威となるウイルスであることは周知のごとくである。SARS-CoV2の感染者数の比率は各国で様々ではあるが、致死性に関してはは、死亡率で平均2%前後と報告されておりSARS-CoV1, MERSに比べると脅威のレベルは小さい。SARS-CoV2の問題点は、主にバイオエアロゾル感染、飛沫感染による高い感染力を有していることであり、感染を回避するためには感染者(無症候性/有症候性)が放出する感染ウイルスを含む呼気粒子(主にバイオエアロゾル)暴露をできるだけ最小にする必要がある。感染力を2つの独立変数(座標中心からの位置ベクトルr(x,y,z)と時間t)で与えられるベクトルF(r, t)で表すと人口密度が一定(人ー人間隔が一定値に保持される状態)と仮定すると拡散方程式: (∇・∇)F(r,t) – k d/dt F(r,t)=0 (kは係数)に帰結すると考えられ、メディア等での感染拡大予測の大部分は、拡散方程式に基づき種々の境界条件を加えて数値計算して算出していると思われる。人流制限はこの微分方程式の特殊解を算出するのを容易にすると考えられ数学的予測値の的中率を向上させる大きな因子となる。拡散方程式はインクなどを濾紙の上に落とした際の広がり状況を表す微分方程式の典型であるが、この広がりに影響する因子は元々のインクの濃度(=感染性粒子濃度)、インクの広がりにくさを左右する因子(=雨、風による感染射程の減衰、マスク接平面の粒子に対するファンデルワールス力による微粒子のフィルタリングなど)が大きく影響することは容易に想定できることであり、この対応可能な物理的要因にフォーカスするのが常套手段といえる。感染粒子濃度の調整は、単位時間当たりの発声(会話)数に比例し、粒子のフィルタリングはマスクやフルフェイス装具に依存すると考えられ一般生活をしていく上で何を励行すれば良いかは上記を踏まえた上で個人で適度に行っていただければ良いと考えらる。δ株出現以前はワクチン効果による感染者の呼気中ウイルス粒子数の減衰や接種者における感染抵抗因子の増大がある程度見込まれていた印象があったが、δ株出現によりワクチン効果による感染抵抗因子の寄与は非常に小さくなったと評価すべきであろう。
②COVID19の感染→発症形態について
通常のSARS-CoV2(COVID19)感染(感染者の約85%のを占める無症状または軽微症状感染)におけるウイルス侵入のターゲット部位は下図1の如く2型アンギオテンシン変換酵素(ACE2)が高率に表面発現している鼻腔粘膜である(1)。ACE2は膜タンパク受容体として細胞膜表面に存在し、COVID19ウイルスはスパイク蛋白(S蛋白)を利用してACE2と結合する。この時宿主のTMPRESS2を利用してS蛋白はS1とS2の二つの蛋白(サブユニット)に分離し宿主細胞の細胞膜と癒合しエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれウイルスのRNAの細胞内放出が起こる。放出されたRNAが宿主のリボゾームに到達するとまず、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)が合成され、合成されたRdRpもまた宿主のリボゾームを利用して新しくウイルスのRNAを複製していく。mRNAが複製されると宿主のtRNAによりウイルス蛋白の合成が開始される。この様にして合成された蛋白とウイルスRNAから新しいウイルス粒子が出来上がり、複製されたウイルス粒子はエクサイトーシスにより細胞外に放出される。
無症候/軽微症例ではこの繰り返しが鼻腔/咽頭の局所でのみ起こり終結する場合であり、全年齢層を通じて80〜85%がこの範疇に含まれる。何らかの原因で下気道にウイルスが到達すると肺胞細胞表面に発現しているACE2を介して区域性肺炎を発症せしめるがここから全例が重症化するわけではなく重症化にはそれ以外の感染経路を介したサイトカインストームの誘発が関与している。これに至らない症例は酸素吸入程度で軽快する過程を辿り通常のウイルス肺炎の経過に終わる。
③COVID19関連死のリスク因子について
Corona Gらは、COVID19関連死に関して世界の各地域と年齢に関して比較した結果を報告している(2)。米国とヨーロッパは、その他の地域に比べ2倍ほど死亡率がたかく、70歳以上は30-50歳に比べ10倍以上高い死亡率となっている(図2参照)。
高齢は関連死の最大のリスク因子であり、かつ最大の交絡因子でもある(3)。そもそも80歳以上では極端に自然死(寿命による)の確率密度が上昇し、かつ肺炎が死因の最上位を占めていることはSARS-CoV2パンデミック以前から周知された事実である。
COVID19肺炎に関しては、当初から重症化する症例とそうでない症例の入院時のCTによる肺炎画像所見に有意差は認められないと報告されており、他に重症化を生じせしめる因子があることは推定さていた。Williamsonらは英国NHSの診断記録をデータを用いてCOVID19感染関連死のリスク因子に関しての事後解析結果(下表1)を報告している(4)。
年齢、性別の2つの交絡因子のみを補正した解析結果と人種以外の全ての交絡因子を補正した多変量Cox解析の結果を見比べると、喫煙、慢性呼吸器疾患、高血圧が関連死のリスク因子から外れてくることがわかる。全補正を行ったあとも、70歳以上(特に80歳以上)は最大の死亡関連リスクであることは変わりない。BMI≧40、HbA1C高値の糖尿病、最近の癌の既往(診断後1年以内)、血液系の悪性腫瘍、GFR≦30 ml/minの高度腎機能低下、肝臓病、脳血管障害または認知症が死亡関連リスク因子として注目される(4)。肥満と糖尿病の有病率は海外では高率で糖尿病の有病率が30%を超えるアメリカではCOVID19関連死亡者数が70万人を最近超えた。