Case 24-6; COVID-19 AT part1 : 感染性飛沫の発生機転と空気感染(バイオエアロゾル感染)の関係、Quantum Generation Rate、Wells–Riley方程式について

COVID19に関して、空気感染( Airborne Transmission : 以下AT )の存在が明らかになりつつある状況にて、飛沫(droplet)、Wells–Rileyの方程式、についてアップデートした。

ATが存在する状況では、感染者との直接接触(いわゆる濃厚接触)がなくてもある一定時間、同一空間で空気を共有するだけで感染が成立することになり閉鎖空間をアクリルシールドで区分けした程度の飛沫感染対策では不十分ということになる。COVID-19の接触感染は実際には極めて生じにくく、今まで接触感染と考えられている多くのケースが実は、ATにより引き起こされたものであることが明らかとなってきている。多くの感染経路不明患者の感染ルートに関して、ATが原因とすれば説明は容易であるが、これに関しては呼気により生じる飛沫の数と大きさ(直径φ)、呼出後の飛沫ベクトルの描く軌跡(エアロゾル気流)に関して温熱効果を考慮した上で根本的に感染対策を再考する必要がある。

①COVID-19における空気感染(AT)とは、感染性のあるφ100μm 以下の飛沫(droplet)が空中に拡散して漂っている空間の空気を呼吸により取り込むことにより感染が成立する感染パターンを示す。厳密にはエアロゾルを介した感染であり、和訳は少し誤解を生じるが結果的には≒の感染様式を示す。

咳により発生する飛沫の直径φの幾何平均(GM : Geometric Mean)は、φ = 0.25μm〜96.6μmとも報告されている(1)。呼吸や咳により発生する飛沫は、大まかに3種類に分類できる。重力効果による落下運動と蒸発による飛沫サイズの縮小により、これらの飛沫ベクトルの軌跡はそれぞれ異なり、便宜上φ1μm以下、φ1~100μm、φ100μm以上に分類するのが都合がよい。以下に呼出により生じたこれらの飛沫がさまざまなRH(Relative Humidity:相対湿度)で蒸発され、ある一定の閉鎖空間でどのようにサイズダウンするかを提示する(2)。

Droplet evaporation in various RH
相対湿度(0〜80%)の種々の条件における大気中での蒸発に伴う純水含有飛沫径の変化:参考文献2より引用しました。

上記は、純水を含む飛沫がRH0〜80%の室内大気中に放出された後に蒸発による飛沫径φの時間変化を示しているが全てのサイズの飛沫でRHが上昇するにつれてdφ/dtの絶対値は小さくなり縮小しにくくなることが示されている。これはRHが上昇すると飛沫が重力効果を受けやすくなり沈降(settling)しやすくなる事を意味する(運動方程式:mdv/dt=mg-kv)。φ200μm以上の大径飛沫は基本的に蒸発による縮小を軽度に受ける程度で地面に落下する。一般には、φ100μm以下の飛沫は落下するまでに蒸発して微小飛沫核となると言われている。

実際には、咳やくしゃみにより産生される飛沫は水分と種々の不純物(タンパク質など)が混合したものであり、これらは蒸発過程を通じてバイオエアロゾル(bioaerosol)となる。バイオエアロゾルは、感染性飛沫核として数分漂うことになるので閉鎖空間で空気を共有することで感染が成立することの説明になる。飛沫が重力を受けて1m落下するのにかかる時間は実験により下記のようになる(see→table2)ことが報告されている(3)。特に0.5〜20μmの飛沫は空中に長時間漂い、通常呼吸により気道に付着して呼吸器感染を引き起こすと言われている(4)。

falling time of various droplets
各種サイズの飛沫が1m落下するのにかかる時間(秒):参考文献1より引用しました。

呼吸や咳により生成される飛沫数は個人差があり、感染性飛沫の発生個数(後述のquantum参照)は、感染力の大きさを決定づける因子となることは容易に理解できる。飛沫産生は、咳により生成される場合が最も多く、鼻呼吸により生成される場合が最も少ない。しかしながら咳よりも口呼吸の方がφ1μm以上の飛沫が多く産生される。

飛沫産生量の個人差
参考文献4より引用しました

1回の呼吸/咳により大量の飛沫を生み出すsuper producerが存在することが分かっており(5)、super producerが感染源となった場合にsuper supreaderとなりうることは容易に推定される。

咳や口呼吸により産生される平均飛沫数
咳/口呼吸1回分により生成される平均飛沫数:文献5より引用しました。

飛沫の発生数に関しては、おおむねくしゃみ1回で、1,000,000飛沫、咳1回で5,000飛沫、100語程度の大声での会話で250飛沫、通常呼吸1回で数飛沫とされており5~10分前後の対面での会話で1回の咳に相当する飛沫を浴びることになりうる(6)。COVID-19の感染飛沫を含むバイオエアロゾルは、主にφ = 0.25~0.50μm、φ = 0.50~1.00μmの2つのサイズ分画で存在する(7)。またこのサイズのエアロゾルの重力による地面への沈着率は、0.21~0.61/h(平均 0.31/h)と算出されている(8)。

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