地域住民の皆様へ 

COVID19と正しく向かい合うために必要なこと

県内でも新型コロナウイルス感染が連日報告される様になっております。現時点での1日の報告数は1桁台にありますのでコンタクトトレーシング(クラスター対策)により封じ込めが不可能な状況ではありません。新型コロナウイルスを撲滅することは現実的には不可能ですので感染が拡大しすぎない様(=実行再生産数Rtを1以下に制御)に常に注意が必要となります。

①高齢者の感染予防対策としてのフィジカル・ディスタンシング

今回の再流行(第2波と呼ぶべきかどうかは別として)に関して、初回(第1波)と異なるところは、初回収束の後に一時的に小康状態の様な感染制圧期間が得られたことにより病院/介護/老健施設などがCOID19対策を実装する準備期間が稼げたことです。”リスクの高い高齢者を可能な範囲で隔離できている”ことが前回流行とは大きく異なるところです。多くの病棟、介護施設では外出禁止/面会禁止が義務付けられています。高リスクの高齢者は3月以降ほぼロックダウンされたままの状態にあります。ほとんどの老健/介護施設/病院が、高リスク高齢者を一気に外界から遮断したことが第1波の急速な自然終息を引き起こした主要因ではないかと考えます。現在、この効果は高齢者の罹患率低下と重症/死亡者数の低下に反映されていると私は考えます。今回コロナの疫学/統計に携わる方は水面下で医療関連機関が実装した渾身の努力の結果をきちんと評価した上で感染の傾向を数学的に正直に予測して頂きたいと願います。入所中の高齢者は、多くは小病院やクリニックが診ていますがほとんどはご家族が代理受診くださっているものと思います。

②日本国内での感染伝播速度を減弱させているもの

現在世界を席巻している様なウイルスが、日本国内に限って安易に弱毒化したり感染力が減弱するようなことは常識的にはまずあり得ません。重症度、死亡率ともに欧米諸国とは大差ありません。もし、感染の広がるスピードを抑制している”ファクターX”があるとすれば、日本国民のほとんどが毎日きちんと”マスクを着用し、手洗い消毒を励行していること”であると考えます。これは当初から言われている疫学的対策の基本中の基本手法です。自明のことですが、飛沫感染接触感染に対して適切にかつ慎重に対処すればDriving Forceを減速できます。COVID19に対するマスクの予防効果は既に実証されています(ただしマイクロ飛沫には対応困難のようです)。

③COVID19感染予防に関して周知が必要なこと

現時点までに以下の事象に関してほぼ確からしいと認識されています。
①COVID19の潜伏期(接触〜症状出現まで)は〜10日(平均約4日)
症状出現の約5日前〜5日後(発症2日前くらいから感染力が急上昇する)までは他人に強く感染させる能力がある。
③軽微な症状の症例は、発症後に重症に至った症例の約1/2の感染能を持つ。
家庭内のクラスターが極めて生じやすい。
大クラスターは、密閉された空間大声(大息)を出すと生じやすい。(ライブハウス、トレーニングジム、カラオケハウスなど)
⑥密閉空間ではマスクの感染予防効果は落ちる。

したがってこの様なウイルスの特性を認識した上で、個人個人が感染を広げない様に少しずつ気を利かせて生活していく必要があります。

④自粛生活がもたらした恩恵は何か?

国民総自粛により何を得たかに関しては、経済的ダメージの大きさのみが注目されています。確かに非常事態宣言前にすでに高リスク高齢者群の急速ロックダウンでウイルスのDriving Forceは減弱していたと後からみれば理屈づけできますので無駄に見えるかもしれませんが、実際には局面を左右する重要な決断であったように感じます。なぜならこの期間で、若年者もすべからく封じ込められましたので現在の主な表現型となっている無症候/軽微症候感染の連鎖を根こそぎ切断する寸前までたどり着いていたとも推定されるからです。残念ながら東京では人口集中の問題もあり新規感染者”ゼロ”を1日も達成できなかったようですが国内のほとんどの地域では連日”ゼロ”を達成しいわゆる数理モデルでいうところの完全制圧を成し遂げていました(この意味では東京の現在の流行は単なる第1波の再燃というべきでしょうか?)。この一時的切断おかげで崩壊寸前であった医療が少し息を吹き返し第2波に備える準備が少しできたように思います。現在の状況に至る過程は、あの時の苦しさに耐えて皆様で勝ち取ったものが土台となっていると考えます。

⑤実行再生産数Rt<1に維持するための努力

一般論として実行再生産数Rt<1.0を維持できれば感染は拡大せず穏やかに収束していきます。経済活動を維持することとRt<1.0は必要十分条件の関係にあると考えられます。
このためには徹底的なコンタクトトレーシング(追跡調査)を行い、発症者の発症前5日から隔離までの期間の接触者を全数掌握し、PCR検査により感染の有無を確認することにより一定集団として完全に囲い込む必要があります。唯一感染制御に有効な手段と考えます。

Hellewell J, Abbott S, et al. Feasibility of controlling COVID-19 outbreaks by isolation of cases and contacts. Lancet Glob Health 2020; 8: p488-p496.より引用しました。

上図はある時点における実行再生産数に対して、どのくらいクラスター対策ができれば実行再生産数を1.0以下にすることが可能かどうかをシミュレーションしたグラフです。
具体的に見てみると、実行再生産数Rt=1.25前後であれば、その時点での発症患者数の60%の感染ルートと濃厚接触者が完全に掌握できていればRt<1.0へ誘導できることになります。
Rt=2.0に上昇すれば、発症患者の80%のコンタクトトレーシングを完遂する必要があります。現実問題として80%の達成率は遂行可能な数値とは思えません。
現実問題として新規感染者数が40人/日くらいのところが、コンタクトトレーシングで追従できる上限値ではないかと考えます。また、感染経路不明者が50%を超える状態では感染制御はほぼ不可能な状態と推定できます。

大都市では、高齢化率が低いため高リスク高齢者群のロックダウンが継続する限り若年層が分母となる感染形態が進行することはある程度想定内といえます。しかしながら元気な高齢者や在宅診療を受けている小~中リスク高齢者は隔離されていませんのであまりに感染分母が大きくなりすぎるとこの集団を起点として重症患者を生み出す方向に進むことも予見できるといえます。感染者の増加を良しとみている国家はほとんどありませんのでどこかで制限が必要になると思いますが、新規感染者数が一定数以上になると行きつくところまで行ってしまうであろうことも諸外国の歩んだ経過をみれば致し方ないのかもしれません。やみくもにPCR検査を増加するのではなく、PCR検査の拠点を均等に配置して陽性率から地域をさらに亜区域化してゾーン分けしていくのも1手段にならないかと考えます。

日本は、AIDSと結核の新規発症制圧に難渋している先進国として国外からは感染対策にルーズな国だと評価されているのも事実です。来年オリンピックを迎えるにあたり、新型コロナウイルスの流行を制御できるかどうかは日本の国際的評価に影響を及ぼす決定的な課題となるかもしれませんね。

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