大原美術館:工芸・東洋館入口前の生け花

いつの頃からか、美術館スタッフにより生けられるようになったそうです。

2020年1月撮影

1月の生け花です。蝋梅(ロウバイ)と万両(マンリョウ)と寒椿(カンツバキ)でしょうか?季節に合った花がいつも生けられています。この場所で生け花を目にした時、え?と思いました。生け花と言えば、屋内で花器や花瓶に生けられるイメージが強かったからです。屋外で、周りの植え込みに溶け込みつつも存在感を発揮するその姿が、なんともグッときます。

  

2020年2月撮影

2月の生け花です。二ホン水仙と梅でしょうか?木瓜(ボケ)にも似ていますが、時期的に梅だと思います。

屋外という事で、雨や風に比較的強い花が生けられているように思います。ついさっきまで庭で咲いていた花たちが今そこに生けられてるって感じです。

それにしても、似たような花って多いですよね。万両(マンリョウ)や千両(センリョウ)や十両(ジュウリョウ)、椿(ツバキ)や寒椿(カンツバキ)や山茶花(サザンカ)、梅(ウメ)や木瓜(ボケ)や桜(サクラ)等。詳しい方も多いと思います。違っていたらすみません。

大原美術館は本館、分館、工芸・東洋館とに分かれています。開館時間は9:00~17:00です。開館時間内であれば、館内に入らない限り、見学は自由となっていますので、ぜひ行ってみてくださいね!

大原美術館:ふさがれた窓

大原美術館本館、西側の外壁です。

2020年2月撮影
大原美術館本館西側外壁

第一印象は、お洒落なデザインの外壁だな~でした。長方形がきれいに並んでいます。それぞれの長方形の上部は、少し盛り上がっていて、まるで窓枠のようです。

しばらくして、やはり窓枠だったことを知りました。この長方形は、かつての窓だったんです。盗難被害にあったため、すべての窓を塞いだ結果だったみたいです。

    

1963年、ジャン=バティスト=カミーユ・コローの『ナポリの風景』がすり替えられて盗難にあっています。現在も行方不明だそうです。
そして1970年、本館2階に展示されていた作品で、5点が盗難にあいました。ジョルジュ・ルオーの『道化師(横顔)』、アルマン・ギヨマンの『自画像』、ギュスターヴ・モローの『雅歌』、エドゥアール・ヴュイヤールの『薯をむくヴュイヤール夫人』、フィンセント・ファン・ゴッホの『アルピーユへの道』です。1972年、全ての絵画が回収され、事件は見事解決しています。本当に良かったと思います。

盗難から無事戻ってきた絵画を紹介します。実物を観たらよく分かるのですが、持ち運びし易い比較的小型の作品ばかりとなっています。

大原美術館
ジョルジュ・ルオー(1871-1958)
『道化師(横顔)』1926ー1929
大原美術館
アルマン・ギヨマン (1841-1927)
『自画像』1890-1895
大原美術館
ギュスターヴ・モロー(1826-1898)
『雅歌』1893
大原美術館
エドゥアール・ヴュイヤール (1868-1940)
『薯をむくヴュイヤール夫人』 1893
大原美術館
現在は公開されていない

ところで、このゴッホの作品らしき絵、なんと贋作だったそうです。これはこれで、良い作品のように思えるのですが…。ちなみに本物はこちらです👇

クリーブランド美術館
フィンセント・ファン・ゴッホ (1853-1890)
『アルピーユへの道』 1889

建物に歴史ありですね。

大原美術館:『マルトX夫人ーボルドー』ロートレック

ポスター版画(リトグラフ)で知られるロートレックの油彩画です。

大原美術館
アンリ=マリー=レーモン・ド・トゥ―ルーズ=ロートレック(1864-1901)
『マルトX夫人-ボルドー』1900

【鑑賞の小ネタ】
・ロートレックは伯爵家の嫡男
・ロートレックが没する前年の作品
・力の入った髪型と髪の色
・マルトX夫人とは誰なのか?

マルトX夫人とは、誰なのでしょうか?長年気になっていて、いまだに答えが出ません。ロートレックはパリのモンマルトルに住みつき、娼家などの庶民的な歓楽街の世界をテーマに多くの作品を残しました。そうだとすると、ゴージャスな衣装から、高級娼婦かモデルなのかなと思いましたが、「夫人」とあるし、「貴婦人である」という記述をどこかで目にしたこともあるので、謎が深まるばかりです。

手掛かりは、「マルト」だと思い、ロートレックの周りの女性たちを色々調べましたが、なかなかそれらしい女性が見つかりませんでした。亡くなる前年に、体調がすぐれない中描いた意欲作だと思うので、かなり親しい人であるはずなのですが…。

そこで、ロートレックの交友関係を調べることにしました。ロートレックに影響を与えた人(芸術家やパトロン等)の妻に注目してみました。すると、いたんです!ピエール・ボナール(画家)の妻がマルトだったんです。ロートレックは1891年にボナールに出会っています。そして、リトグラフをロートレックに勧めたのはなんとボナールなんだそうです。確かに、今日目にすることが出来るロートレックのリトグラフのポスターの制作年は、1891年以降になっています。ロートレックの運命を変えた重要な出会いであったと言えそうです。

ボナールは1893年にマルトと出会い、事実婚状態がしばらく続きます。正式に結婚したのは、32年後の1925年です。マルトは「マルト・ド・メリニー」と名乗りボナールと生活していましたが、入籍時に本名は「マリア・ブールサン」だと告げたそうです。年齢もボナールより10歳年下のはずが、実際には2歳年下だったようです。まさに謎多き女性、X夫人なのです。

ただ、あまりにも見た目が違い過ぎます。

大原美術館
ピエール・ボナール(1867-1947)
『欄干の猫』1909

ボナールの作品です。左端にいる女性がマルトです。ボナールはたくさんマルトを描いていますが、どの作品も残念ながら『マルトX夫人』には全く似ていません。

見た目でいえば、ミシア・セールによく似ていると思います。ミシア・セールはピアニストで、多くの芸術家のパトロン・友人でもあり、しばしば芸術家のモデルもつとめたという女性です。ロートレックとの関わりもかなり深いです。

アンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック
『ミシア』1897

どうでしょう?ほぼほぼこれで決まりと言いたいところですが、やはり「マルト」という名前が気になります。もう一度ボナールが描いたマルトを探してみました。

ピエール・ボナール
『Marthe』

Martheはマルトのことです。ギリギリ似ていると言えば似ているのですが、ミシアの方が服装においても断然似てますよね。

作品名にある「ボルドー」については、おそらく、この頃ロートレック自身がボルドーに滞在していたことが関係していると思います。

今回はかなり迫ったように思いますが、やはり決定打に欠けます。ロートレックファンの筆者としては、いつか解明したいものです。

大原美術館:『万有は死に帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん』フレデリック

大原美術館の本館2階に展示されています。とても大きな絵です。

大原美術館
レオン・フレデリック(1856-1940)
『万有は死に帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん』1893-1918

【 鑑賞の小ネタ 】
・この絵の横幅がこの部屋の横幅
・制作期間なんと25年
・向かって左側から描き始める
・中央に聖霊の白い鳩
・作者の娘が描き込まれている

大原美術館内の展示状況

横長の大原美術館で一番大きな絵のようです。入口を入り、振り返って上を見てみてください。なかなかの迫力です。ぴったりとこの部屋に収まるのが不思議なくらいの大きな絵なのですが、それもそのはず、この部屋の横幅は、この絵に合わせて設計されているようです。この絵に対する意気込みを感じるところです。

左側は地獄のような恐ろしい様子です。中央に聖霊の白い鳩が飛んで来ています。神様の使いがやってきたというところでしょうか。右側は人々が立ち上がり、まさに天国の様子です。画面の下の方に、花冠をかぶった女の子が5人座っているのが分かるでしょうか?真ん中に赤い花冠の女の子がいるのが見えますか?

この女の子は作者フレデリックの娘さんガブリエルなんだそうです。この作品が描かれる間に勃発した第一次世界大戦中に亡くなったみたいです。写真では解り辛いので、ぜひ実物を観ていただきたいものです。とても可愛い女の子です。ちなみに、向かって右端の絵👇

この絵👆の左下あたりに、何か文字のようなものが見えます。この画像ではまったく分からないと思いますが、「à notre bien aimée fille Gabrielle(私たちの愛する娘ガブリエルへ)」という言葉が添えられている(参照:大原美術館Ⅰ海外の絵画と彫刻-近代から現代まで―)そうです。(※ガブリエルについてはこちら大原美術館:『花』フレデリックでも書きましたので、ぜひ。)

宗教色の強い絵画ですが、どのようなメッセージが込められているのか、すべて明らかになっているわけではないそうです。絵画の中に、寓意(直接には表さず、別の物事に託して表すこと)やアトリビュート(西洋美術において伝説上・歴史上の人物または神話上の神と関連付けられる持ち物)を描き込むことはよくあります。そういう目線でこの絵を観てみると、色々描かれているのが分かります。

筆者が気づく範囲でちょっと書いてみます。

を持った黒い服の人物(女性?)がいます。この人物は、左から順に3場面で描かれています。最終場面では、服の色が黒から薄い黄緑色に変化しています。また、この人物は石版のような何かを持っています。そこにはLEXという文字が見えます。LEXとは、ラテン語で法案、法律、契約を意味します。石版、契約といえば、「モーセの十戒」?
その他、天秤油壷のような金属製のものが描かれています。天秤は、正義の女神のアトリビュート(※「目隠し」も正義の女神のアトリビュートの1つですがこの絵の中には見られないように思います)です。
緑色の衣服長い髪油壷といえば、「マグダラのマリア」のアトリビュートなのですが、その辺りは推測の域を出ません。
左側の地獄の場面には、洪水と思われるものが描かれています。上部に描かれている手は、神様の手でしょうか?左手に何か持っています。神様の頭のようにも見えますが、少し大きめの丸みを帯びたのようでもあります。
洪水と言えば、ノアの箱舟を思い出す方も多いと思います。そして、石(硫黄)と言えば、「創世記」の一場面が思い出されます。神の怒りに触れ、硫黄の火を降らされて町(ソドムとゴモラ)が滅んだというエピソードです。

何れにしても推測、想像の域を出ませんが、じっくり観ていると新たな発見があること間違いなしです。詳しくは明らかになっていない分、自分の想像力で自由に鑑賞できる大変興味深い作品だと思います。

 

[おまけ]
おじさん(おじいさん)が描かれていないという話を聞いたことがあります。どう思われますか?

阿智神社の高灯籠

鶴形山に鎮座する阿智神社。主祭神は「宗像三女神(むなかたさんじょしん)」です。 多紀理毘売命(たぎりひめのみこと)、多岐都比売命(たぎつひめのみこと)、市寸嶋比売命(いちきしまひめのみこと)のとても美しい三姉妹の女神です。 中でも 市寸嶋比売命 は弁財天と習合しています。

宗像三女」は 海上交通の守護神 です。かつて倉敷市鶴形山周辺(倉敷美観地区周辺)は海上交通の重要な拠点でしたので、ぴったりの神様だと思います。

2020年1月撮影

以前の記事で紹介しました石畳のある筋から高灯籠が見えます。美観地区を見渡せる良い位置です。かつては鶴形山の麓、倉敷川の「中橋」辺りにあったらしく、後になって阿智神社の境内に移築されたようです。

  

2020年2月撮影 阿智神社の高灯籠

現在の高灯籠は平成8年に修復されています。

高灯籠から美観地区の方向を撮影してみます。

2020年2月撮影

なかなか良い眺めですよ。