阿智神社の高灯籠

鶴形山に鎮座する阿智神社。主祭神は「宗像三女神(むなかたさんじょしん)」です。 多紀理毘売命(たぎりひめのみこと)、多岐都比売命(たぎつひめのみこと)、市寸嶋比売命(いちきしまひめのみこと)のとても美しい三姉妹の女神です。 中でも 市寸嶋比売命 は弁財天と習合しています。

宗像三女」は 海上交通の守護神 です。かつて倉敷市鶴形山周辺(倉敷美観地区周辺)は海上交通の重要な拠点でしたので、ぴったりの神様だと思います。

2020年1月撮影

以前の記事で紹介しました石畳のある筋から高灯籠が見えます。美観地区を見渡せる良い位置です。かつては鶴形山の麓、倉敷川の「中橋」辺りにあったらしく、後になって阿智神社の境内に移築されたようです。

  

2020年2月撮影 阿智神社の高灯籠

現在の高灯籠は平成8年に修復されています。

高灯籠から美観地区の方向を撮影してみます。

2020年2月撮影

なかなか良い眺めですよ。

鶴形山の鐘楼:棟方志功

2020年2月撮影 鶴形山隧道と鶴形山の鐘楼

中央のトンネルは「鶴形山隧道」と呼ばれています。その上に緑青色の屋根の建物が見えます。これが「鶴形山の鐘楼」です。時を告げる鐘「時鐘」として今でも現役で活躍しています。

2020年2月撮影 鶴形山の鐘楼の説明書き

かつては町の人々が鐘守人として交替でうち続けていたようです。現在は自動鐘打機が設置されていて、1日7回、6時・9時・12時・15時・17時・18時・21時にその鐘の音を聞くことが出来ます。

2020年2月撮影 鶴形山の鐘楼
鶴形山の鐘楼の時鐘

気づきましたか?鐘の図柄をよく見てください。棟方志功によるものです。また、天井の板には見事な龍が見えます。

平成 15 年に棟方志功の生誕 100 年を記念して、倉敷市内にある棟方志功の作品を見ようというツアー がありました。多くの人が参加し見学したとのことです。

残念ながら普段は門に鍵がかけられていて、鐘楼の内部を見学することはできませんが、 倉敷市教育委員会文化財保護課に連絡し、 見学を要望すれば、1人でも2人でも見ることはできるそうです。

ぜひ頑張って見ていただきたいものです。

大原美術館:本館の頂上にあるあれは何?

2020年2月 画面奥に大原美術館

大原美術館は1930年に開館した日本初の西洋美術を中心とした私立美術館です。その外観はギリシャ神殿風で、とても雰囲気があります。巨大な柱は一見、大理石のようにも見えますが、鉄筋コンクリートで造られています。

2020年2月 大原美術館本館正面

屋根の頂上に、何かあります。あれがあることで、グッと引き締まって見えます。小さな仏像のようにも見えるこれは何でしょうか?

2020年2月 大原美術館本館頂上のアップ

アクロテリオンというものでした。アクロテリオンとは、ギリシャ・ローマ建築の破風の頂上と両端に載せられた装飾、または小彫像のことです。アクロテリオンの図柄を色々と調べていくと確かにありました!

原典:A handbook of ornament (1898)

そっくりです。このデザインは棕櫚(シュロ)の葉をかたどったものです。ギリシャ神話で棕櫚というと勝利を意味するそうです。

大原美術館は所蔵作品だけでなく、建物も楽しめる美術館だと思います。

大原美術館:『受胎告知』エル・グレコ①

大原美術館の3室に1点だけ展示されているエル・グレコの『受胎告知』です。

大原美術館
エル・グレコ(1541-1614)
『受胎告知』1590頃―1603

【鑑賞の小ネタ】
・ほぼ400年以上前に描かれたもの
・エル・グレコとは「ギリシャ人」
・引き伸ばしたような描き方
・中央に神様の使い聖霊の白い鳩
・聖母マリアを示すたくさんのアトリビュート
 (青色のマント、赤色の衣服、白百合等)

エル・グレコの本名はドメニコス・テオトコプーロスで、イタリア語で「ギリシャ人」を意味するグレコにスペイン語の男性定冠詞エルがついた通称です。なんだかとても国際的です。

アトリビュートとは、個人を表すシンボルやアイテムのことです。画中の天使は、大天使ガブリエルです。百合の花はガブリエルのアトリビュートにもなっています。ちなみに天使には性別がないとされていますが、ガブリエルは女性ではないかという説があります。確かにふくよかで、手の動き等、女性的ですよね。

エル・グレコの引き伸ばしたような描き方についてですが、あえてそんな風に描いたようです。マニエリスム(特徴:首や四肢を極端に長く描いたり、不自然な空間表現をする等)の描き方ですね。そして、そもそも宗教画は教会の少し高めの位置に掲げられるものなので、下から見上げて丁度良くなるように工夫したとの見解もありました。鑑賞の際には少し身をかがめて観てみるといい感じに見えるかもしれませんョ(^-^)

エル・グレコの『受胎告知』は、大原美術館のこの作品の他に、とてもよく似た作品があと3点あるのを知ってますか?

ブタペスト国立西洋美術館
『受胎告知』1595 エル・グレコ
オハイオ州トレド美術館
『受胎告知』1600 エル・グレコ
サンパウロ美術館
『受胎告知』1600 エル・グレコ

本当によく似ています。大きな違いと言えば、大原美術館の『受胎告知』の聖母マリアにだけ、星の冠があります。「12の星の冠」は聖母マリアのアトリビュートの1つにもなっていますが、大原美術館の『受胎告知』 にのみ描かれていることからか、後になって描き足されたのではないかという興味深い見解もあるようです。

この4点の構図がほとんど同じ『受胎告知』、どの作品に一番グッと来るでしょうか? 筆者は大原美術館の『受胎告知』が一番好きなのですが、色んな見解が出て来そうですね。

ちなみに『受胎告知』は、その他多くの巨匠たちによって描かれています(投稿記事:多くの巨匠が描いた『受胎告知』)。

投稿記事 大原美術館:『受胎告知』エル・グレコ② へ続く…

大原美術館:土蔵(工芸・東洋館)の鼠

2020年1月撮影:大原美術館 工芸・東洋館

大原美術館の工芸・東洋館です。かつては米蔵として使用されていました。 室内や外装のデザインをしたのは染色家の芹沢銈介です。

 

2020年1月撮影:赤壁の土蔵

現在、 芹沢銈介 展示室となっているベンガラ色の土蔵です。ベンガラ色は、系統色名でいうと「暗い黄みの赤」なんだそうです。おさえめの美しい赤色です。

ところで、どこかに鼠(ねずみ)が描かれているというのですが、探せますか?

  

ここです!

2020年1月撮影:土蔵の鼠

屋根の先に、長いしっぽの鼠らしきものが描かれています。走っているようにも見えますね。

それにしても、米蔵に鼠って何かおかしいと思いませんか?鼠は米を食べてしまうので駆除したい生き物のように思うのですが…。土蔵と鼠についてちょっと調べてみました。

 

鼠は『古事記』に登場しています。大国主命(おおくにぬしのみこと)が野火に囲まれて窮地に追いやられた時、助言を与えて大国主命を助けています。

大国主命
出展:写真素材ーフォトライブラリー

また、七福神の大黒天(だいこくてん)は鼠を使者としています。そういえば、大黒天は米俵に乗ってますよね。

大黒天
出展:写真素材ーフォトライブラリー

奈良時代に始まった神仏習合(しんぶつしゅうごう)により、大国主命と大黒天は融合していきます。神仏習合とは、そもそも日本にあった神様の信仰である神道と外国からやってきた仏教の信仰がひとつになった宗教の考え方です。「大国」と「大黒」、確かに融合しそうですね。

大黒天は食物や財福を司る神ですので、米蔵としての土蔵に鼠の絵というのは、おかしなことではないのだなと思いました。

その他、土蔵と鼠に関係するお話を探してみると、中国の秦の時代に始皇帝の宰相として活躍した李斯(りし)の「便所の鼠と米蔵の鼠」というお話がありました。便所の鼠は食べ物もなく周りを気にしておどおどしているが、米蔵の鼠はよく太り堂々としていた、という内容です。住んでいる環境によって違いが生まれ、それは人間の世界でも同じであり、それならば自分は米蔵の鼠になろうというような話です。ちなみに余談ではありますが、李斯は日本の大人気漫画「キングダム」に登場しています。

じっくり見ていると色んな発見があって楽しいですね。