大原美術館:『グレヴィルの断崖』ミレー

緑の断崖、空、海、美しい絵ですね。

大原美術館
ジャン=フランソワ・ミレー(1814-1875)
『グレヴィルの断崖』1871

【鑑賞の小ネタ】
・なんとパステル画
・ミレーの愛称は「農民画家」
・バビルゾン派の中心人物
・画中の人の大きさに注目

油彩画だと思って見ていたので、パステル画と分かってびっくりしました。筆者にとってパステル画はもう少しざっくり描くイメージなのですが、細かくきっちり描けるものなんですね。画材にも注目して絵を見てみると、また見方が違ってきておもしろいと思います。『グレヴィルの断崖』という作品は、他にもいくつかあります。

オルブライト=ノックス美術館
ジャン=フランソワ・ミレー
『グレヴィルの断崖』1871 -1872
山梨県立美術館
ジャン=フランソワ・ミレー
『 グレヴィルの断崖 』1870

『グレヴィルの断崖』ではないのですが、『グレヴィルの海岸』という作品もあります。 オルブライト=ノックス美術館 の 『グレヴィルの断崖』 とよく似ています。描いた場所は同じではないかと思います。

国立美術館(ストックホルム)
ジャン=フランソワ・ミレー
『グレヴィルの海岸』

その他、福井県立美術館所蔵の『グレヴィルの海岸の岩壁』1871年という鉛筆と木炭で描かれた風景素描作品もありました。

ミレーはグレヴィル村に生まれました。フランスのノルマンデイー地域圏の村で、マンシュ県のコミューン(地方自治体の最小単位)のラ・アギュに吸収されて、現在はグレヴィル=アギュとなっています。コタンタン半島の突端にある村です。

出展:WIKIMEDIA COMMONS 「Greville-Hague」

ミレーは1830年から1870年にかけてフランスで発生した絵画の一派のバルビゾン派(フランスのバルビゾン村やその周辺に画家が滞在や居住をし、自然主義的な風景画や農民画を写実的に描く)の中心的存在でした。ミレーもバルビゾンで暮らしてきたわけですが、この時期に代表作『種をまく人』や『落穂拾い』を描いています。一般庶民や農民を描くことは、当時としては驚くべきことだったようです。昔から芸術の主題と言えば、神話や聖書の世界、または偉人たちでしたから。

ボストン美術館
ジャン=フランソワ・ミレー
『種をまく人』1850
オルセー美術館
ジャン=フランソワ・ミレー
『落穂拾い』1857

グレヴィルをテーマとした作品は、ミレーが晩年、生まれ故郷へ里帰りした時に描かれたもののようです。聖堂も描かれていました。きっとミレーも通ったんでしょうね。

オルセー美術館
ジャン=フランソワ・ミレー
『グレヴィルの聖堂』1871

ところで、『グレヴィルの断崖』の手前に描かれている青っぽい岩、とても印象的で、丁寧に描かれているように思います。きっとこの地域で特徴的な岩なんだと思い、写真画像を調べてみました。やはりそうでした。断崖付近の草原の中に点在していました。地質学的には、この辺りは古生代末期のアルモリカ造山運動の影響を受けていて、主に先カンブリア時代の結晶片岩、片麻岩、花崗岩、閃長岩質の岩石からなっているようです。また、近くの村ジョブ―ルではフランス最古の岩が収穫されているとありました。この青っぽい岩と同じ岩かどうかは分かりませんが。

最後に、横たわる人についてです。一見、特に問題なく見えるのですが、かなり大きく描かれていると思います。遠近感が分からなくなるだまし絵みたいですね。何か杖(棒)のようなものを持っています。そして青っぽい服。となると、よく絵画に描かれる羊飼いなのかもしれません。横たわる人の左斜め奥の灰色のモクモクしたもの、何に見えるでしょうか?筆者には雨雲に見えます。これから雷が落ちてきそうな積乱雲です。そして、この雲と横たわる人は、なんとなくとってつけた印象で、ここだけ別世界のような感じがしませんか?もしかしたら、神話の世界を描き込んだのかもしれません。写実的な「農民画家」として有名なミレーですが、過去には、神話をテーマとした作品も描いています。

カナダ国立美術館
ジャン=フランソワ・ミレー
『樹から降ろされるエディプス』1847

ギリシャ神話の一場面を描いたものです。赤子の時に捨てられてエディプス(オイディプス)が羊飼いの夫婦によって発見されるところを描いたもので、サロンで初めて成功した作品のようです。

羊飼い、描かれていましたね。
ギリシャ神話に登場する羊飼いで最も有名なのは、パリスかもしれません。トロイア戦争の発端とされる「パリスの審判」で有名なあのパリスです。一番美しい女神は誰かということで3人の女神が争います。そしてこのややこしい審判を、主神ゼウスが羊飼いの美しいパリスに任せるというギリシャ神話です。主神ゼウスというと、宇宙や天候を支配する天空神なので、雲や雷には馴染みがあります。横たわる人がパリスで、雨雲がゼウスだったらおもしろいですね。

[おまけ]
横たわる人、仰向けか横向きか、どう見えますか?

番外編:自宅水槽のシジミ

生き残っていたシジミがやっぱり…

2020年4月30日撮影  シジミ

スーパーのシジミ、残念ながら全滅です。このシジミは宍道湖のシジミでした。詳しくは、ヤマトシジミです。汽水に棲むシジミだったので、そもそも無理がありました。中身は魚たちにつつかれていました。魚がつついた後は、ヤマトヌマエビ(水槽内に以前から2匹います)がワシャワシャしてました。最終的には、水槽内にいる目に見えない濾過バクテリアによって分解されます。生態系、食物連鎖を感じるところです。

ちなみに、川(淡水)の中流から上流で見つかるシジミはマシジミといいます。

マシジミを川からすくってきて入れてみるのもいいかもしれませんね。というのも、知ってる方も多いかと思いますが、シジミなどの二枚貝には水の浄化作用があるんです。

たかがシジミ、されどシジミでした。

美観地区の『前神橋』

美観地区最南端の「高砂橋」に並行して架けられている「前神橋」です。

北側から撮影した「前神橋」
南側から撮影した「前神橋」

自動車2車線の橋です。

出展:倉敷物語館前の立て看板
岡本直樹「倉敷川畔美観地区鳥瞰絵図」の一部

1954年(昭和29年)、「 高砂橋」のすぐ南に架けられました。橋の名前は、旧前神町(現・中央一丁目)に由来しています。欄干に注目です。鉄製の龍がデザインされています。「今橋」にも龍の彫刻がデザインされていましたね。

前神橋 1954
出展: 「絵図で歩く倉敷のまち」吉備人出版 
巻末折込み 「市制記念 倉敷市新地図(昭和3年)」の一部

製作は、建築家・浦辺鎮太郎(うらべしずたろう)によるものです。現・倉敷市出身で、倉敷レイヨン(現・クラレ)に入社し、実業家・大原総一郎の地方都市構想に感銘を受けて、倉敷建築研究所(現・浦辺設計)を設立しています。倉敷市役所、大原美術館分館、倉敷市民会館、倉敷国際ホテル、倉敷アイビースクエア等、その他数多くの建築物を設計しています。

出展:フリー画像
「倉敷市役所」1980年 (昭和55年)建造

 

ちなみに、旧 倉敷市庁舎はこちら。

出展:倉敷市立美術館ホームページ

建築家・丹下健三(1913-2005)が設計しました。現 倉敷市立美術館です。

番外編:自宅の川魚水槽

散歩も難しい日々が続いています。自粛生活の癒しになっている自宅の水槽を今回は紹介したいと思います。

2020年4月撮影 60㎝水槽

水草は 初心者に最適 なアヌビアス・ナナです。筆者の水槽歴は、20年以上になるのですが、この水草はほんとに強いと思います。水槽に適した水草は色々あるのですが、水質によっては溶けるように枯れたり、魚たちに食べられたり、光が足りなくて枯れてしまったりと、その育成はなかなか難しいのです。流木はホームセンターで購入したものです。時々、水に沈まなかったり、水質が悪化したりするので、沸騰したお湯に入れる等、あく抜きをお勧めします。

普段は熱帯魚(小型の淡水魚)を飼っているのですが、数年前から、近くの川からすくってきた川魚も少し入れています。

2020年4月撮影 水槽内の川魚

どちらも在来種です。稚魚の時にすくってきました。カワムツの体には黒いスジがあって、だんだんはっきりしてきています。そしてヒレは赤みを帯びてきて、なかなか綺麗です。オイカワは初め、(ちょっと様子が違っていたので)カワムツのメスかなと思っていました。白っぽい銀色で、鼻の先(口の先)が赤いのです。詳しく調べてみたら、オイカワの稚魚の特徴にぴったりでした。オイカワは「カワムツより光沢のある銀白色で、徐々に口先の部分に赤い点が現れる」のだそうです

2020年4月撮影 川魚の混泳

オイカワが離れて泳いでいる時もありますが、比較的仲良く泳いでいます。

水草の上の黄色い魚に気づきましたか?熱帯魚です。ゴールデン・アルジイーターと言います。ドジョウの仲間で、吸盤のような口を使って水槽のコケを食べてくれます。稚魚の頃の性格は比較的おとなしいので混泳向きなのですが、成魚になると、かなり暴れん坊です。しかも10㎝くらいにはなるので、ちょっとドキドキです。仲良くやってくれるといいのですが…

2020年4月撮影 ゴールデン・アルジイーター

そして、シジミもいます。消費期限が切れてしまったスーパーのシジミです。宍道湖(汽水湖:淡水に海水が混ざっている湖)のシジミだったので、淡水では無理かなと思いつつ7個体投入してみました。1個体のみ適応したようです。

2020年4月撮影 シジミ

ところで、オイカワはとてもよく跳ねます。水槽の掃除の時、ガラスの蓋をとっていて、コンッと音がしたなと思ったら、上部に設置してある水槽用のライトにオイカワがぶつかって水中に落ちて行くところでした。オイカワの生態を調べてみると、よく跳ねると書いてありました。水槽には必ず蓋ですね。オイカワに限らず、魚が飛び出てしまいますから。

大原美術館:『オーヴェルシーの運河』シニャック

塗り方がとてもおもしろい絵だなと思いました。

大原美術館
ポール・シニャック(1863-1935)
『オーヴェルシーの運河』1906

【鑑賞の小ネタ】
・この絵はオランダのOverschie
・シニャックの趣味はセーリング
・海岸風景画が多い
・スーラと共に新印象派の巨匠

点々、凄いですよね。根気がいりそうな塗り方です。時間もかかりそうです。点描(テンビョウ)という点やとても短いタッチで表現する技法で描かれています。印象派の画家たちは、視覚混合(遠くから見ると混じり合ってひとつの色に見える光学現象)を絵画に応用し、筆触分割(パレットの上で絵の具を混ぜずに、原色に近い絵の具の小さなタッチをキャンパスの上に並べる)の方法を生み出しました。点描画法では、筆触分割の小さなタッチがもっと細かいタッチ、点に近いものになっていますね。シニャックが大きな影響を受けたジョルジュ・スーラの作品を見ると、さらに細かいタッチの点描になっているのが分かります。

シカゴ美術館
ジョルジュ・スーラ(1859-1891)
『グランド・ジャット島の日曜日の午後』1884-1886

『オーヴェルシーの運河』には大きな風車が描かれています。オランダなんだろうなと思い、地図を見てみると、オランダにはオーヴェルシーはなくて、フランスにオーベルシーがありました。え?と思いましたが、よくある読み方の問題でした。筆者の見た地図では、オランダのオーフェルスヒー(Overschie)となっていました。そしてフランスのオーベルシー(Aubercy)でした。ちなみに、オランダのオーフェルスヒーには立派な運河がありますが、フランスのオーベルシーには運河はありません。

シニャックは1884年にスーラに出会っています。スーラの描写方法や色彩理論に心打たれ、忠実な支持者となり、スーラ(1891年31歳で死去)亡き後、新印象派の発展と体系化に努めました。スーラに出会う前の作品はこちら。

オルセー美術館
ポール・シニャック
『パリ郊外、ジュヌヴィリエ街道』1883

オーヴェルシー(オーフェルスヒー)はどんなところだったのでしょうか?同時代の画家の作品がこちら。

ボイマンス・ヴァン・べーニンゲン美術館
ポール・ハブリエル
『オーフェルスヒー近くの風車のある干拓地』1898

風車が描かれていますね。オーフェルスヒーは、オランダのロッテルダムの中の都市なので、ロッテルダムを描いた作品も紹介します。

ボイマンス・ヴァン・べーニンゲン美術館
ヨハン・ヨンキント(1819-1891)
『ロッテルダム』1867

中央に特徴的な建物が描かれていますが、この建物、大原美術館の『オーヴェルシーの運河』の中にも描かれているような…

特徴的な建物

黄色で囲った部分です。ちょっと似てると思いませんか?塔の上部辺りが、ポコポコと丸みを帯びて特徴的だったので、前から気になってました。この建物に似たロッテルダム(オーフェルスヒー)の建築物がないか、色々画像を調べてみました。

アムステルダム国立美術館
ヨハン・ヨンキント(1819-1891)
『月明かりの下でのオーフェルスヒー』1871
ヨハン・ヨンキント(1819-1891)
『オランダ、オーフェルスヒーの眺め』

作品名にはっきりとオーフェルスヒー(オーヴェルシー)とあります。大原美術館の『オーヴェルシーの運河』のあの建物と同じと考えて良いのではないかと思います。そして、やっと見つけました!

出展:Wikipedia 
「Nederlands Hervormde Kerk van Overschie」

「オランダ改革派オーバーシー教会」ではないかと思います。Kerkとはオランダ語で教会で、Overschieをここではオーバーシーとしていますね。

 

次は風車に注目です。『オーヴェルシーの運河』の風車もこの系列の風車だと思います。この絵はヨハン・ヨンキントによるものですが、詳細に描かれているので風車の構造がよく分かります。

ティッセン=ボルミネッサ美術館
ヨハン・ヨンキント
『デルフト近くの風車小屋』1857

鐘楼に鐘楼守がいたように、かつて風車にも風車守がいました。その技術は親方から弟子へ受け継がれていたそうです。2017年にオランダの「風車守の技術」が ユネスコ世界無形文化遺産 に登録されています。

シニャックは、水彩画も多く残しています。

国立西洋美術館
ポール・シニャック
『燈台』19世紀
ポール・シニャック
『ラ・ロシェルの釣り船』1920
ポール・シニャック
『バルフルール』1931

シニャックはセーリングが趣味だったので、海岸風景をたくさん描いてます。水彩画もなかなか良いですよね。