大原美術館:『呪われた王』ルオー

優しそうな顔の王様だなと思いました。

大原美術館
ジョルジュ・ルオー (1871-1958)
『呪われた王』1949-1956

【鑑賞の小ネタ】
・額縁と絵が一体化
・どんな王様なのか?
・似たような顔の肖像画あり
・ルオー晩年の作品

作品名が『呪われた王』となっています。呪われたというからには、もっと辛そうな表情に描かれるのかなと思ったのですが、この王様の表情は、どこか優しそうで穏やかに見えます。頭の上に王冠が見えるので、王様だということが分かりますね。

ルオーの作品によく見られる手法ですが、絵画と額縁が一体化しています。額縁にも色彩が施されていて、とても立体感があります。

次の作品は、イエス・キリストを正面から描いた『聖顔』です。

バチカン美術館
『聖顔』1946年頃

『呪われた王』とキリストの『聖顔』、雰囲気が似ていると思いませんか? ルオーは宗教画を数多く残していて、「聖顔」というテーマでは、60点以上も制作したそうです。

イエス・キリストは、人間の持つ罪を背負って十字架にかけられたわけですが、キリストの雰囲気に似た『呪われた王』も、人間(民)の何かを背負って呪われたのでしょうか?しかもそれは王として納得済みのことだったとしたら、あの穏やかな表情も頷けますね。そして、王様は王冠、キリストはいばらの冠をかぶっていることにも注目です。

次の作品は、カトリック教会における聖人ジャンヌ・ダルクがモチーフです。

個人蔵
『我らがジャンヌ』1948-1949
『聖女ジャンヌ・ダルク』1951

ルオーの宗教画の1つですが、これらの作品には注目すべき点があります。次のルオーの師匠ギュスターヴ・モローの作品を見てみてください。

ギュスターヴ・モロー美術館
ギュスターヴ・モロー(1826-1898)
『パルクと死の天使』1890年頃

構図がとてもよく似ていると思います。そして何よりも、モローのこの絵の具の厚塗りは驚きです。というのも、モローの作品と言えば、もっと細密なんです。モローはパリ国立高等美術学校の教授なので、その画風は、滑らかに仕上げられたアカデミック絵画となります。このように次世代的な荒いタッチで厚塗りするようなことを基本的にはあまりしないと考えられます。『パルクと死の天使』の制昨年は1890年頃で、ルオーが学校に入学したのが1891年です。ルオーがまだアカデミック絵画を勉強していた頃、既に、モローは厚塗りを試みていたということですね。

レンブラント(レンブラント・ファン・レイン、17世紀オランダ絵画の巨匠)の再来と言われたルオーの画風が、厚塗りに変わって行く要因の1つに、モローのこの厚塗りの影響もあったのではないかと言われています。亡き師匠の後押しもあって、個性的な画風を追求できたのかもしれませんね。実際モローは、生徒の個性を否定しない、立派な先生だったようですから。

モローとルオーの師弟関係は有名で、ルオーはギュスターヴ・モロー美術館の初代館長に就任しています。大原美術館にはモローの作品『雅歌』(過去記事、大原美術館:『雅歌』モロー)が所蔵されています。展示状況にもよると思いますが、併せて鑑賞すると良いかもしれませんね。

大原美術館:『道化師(横顔)』ルオー

あまり道化師に見えないような…。

大原美術館
ジョルジュ・ルオー(1871-1958)
『道化師(横顔)』1926-1929

【鑑賞の小ネタ】
・道化師をモチーフとした作品多数あり
・顔を斜めに横切る線は何か?
・ステンドグラス職人の経験あり
・初期作品の画風の違いに注目

目がギロッと印象的です。道化師というとピエロですが、あまりピエロっぽくないように思うのですが、どうでしょう?顔を斜めに横切る線はしわでしょうか。傷かもしれませんね。または、ショー用のメイクかも。

同じ頃に制作された『赤鼻の道化師』にも、顔に黒く太い線が描かれています。

アーティゾン(ブリヂストン)美術館
『赤鼻の道化師』1925-1928

同じ道化師を描いたのでしようか?視線もよく似ていますね。 何れにしても、顔の黒い線は何か意味がありそうです。

黒い線と言えば、モチーフのパーツが、黒くて太い輪郭線で描かれているのが分かります。西洋絵画ではあまり輪郭線を描かないので、ここまで太い輪郭線はかなり独特です。 ルオーは10代の頃、ステンドグラス職人や修復作家として修業しています。ステンドグラスにも黒い枠(輪郭)がありますよね。ルオーの作品にはステンドグラスの影響が見られると言われますが、なるほどなと思いました。

ルオーは道化師をテーマとして多くの作品を残しています。

出光美術館
『小さな家族』1932

道化師の家族だと思います。 赤い服がお父さん、青い服がお母さん、黄色い服が子どもといったところでしょうか。静かな雰囲気ですね。
同じ1932年に、次の作品もあります。

個人蔵
『傷ついた道化師』1932

『小さな家族』と同じ道化師の家族だと思います。青い服のお母さんが真ん中でうなだれています。ケガをしたのでしょうか?子どもが心配そうにお母さんを見ています。

ルオーの描く道化師は、道化師(ピエロ)なのにあまり楽しそうに見えません。むしろ、生きることの厳しさを感じるような仕上がりになっていると思います。

ルオーは、場末のサーカスや旅回りのサーカスに特に心を寄せたといいます。そして、「われわれは皆、道化師なのです」と語ったそうです。深いですね。考えさせられます。

ところで、ルオーが本格的に画家を志したのは1890年頃からで、1891年にエコール・デ・ボザール( パリ国立高等美術学校 )に入学しています。ここで、マティスモロー(教師で画家)に出会っています。

次の作品はルオーの初期の作品です。

パリ国立高等美術学校
トュリウスの家におけるコリオラヌス』1894

エコール・デ・ボザール 所蔵の作品ですが、全く画風が違いますね。太い輪郭線はなく、アカデミックなザ・西洋画という感じです。ピカソが分かりやすいかもしれませんが、芸術家の作風が時代とともに変化することはよくあることです。ピカソも最初からあの感じの絵を描いていたわけではありません。ルオーも、画家の内面の変化と呼応して、作風がどんどん変化して行くパターンの作家の1人だと思います。

パッと見、初期の作品の方が、普通に上手な絵という感じだと思うのですが、どうでしょう? ところが『道化師』のような作品と比べた時、訴えるものがあるかないかと言われれば、ちょっと疑問です。仮に、『道化師』を初期の頃のような作風で描いたと想像してみてください。普通に上手な肖像画になるとは思いますが、やはり、今の画風の方が訴えるものがあるような気がします。

ちなみに、とてもインパクトの強い作品『道化師』は、過去記事(大原美術館:ふさがれた窓)でも紹介しましたが、盗難の経験があります。『道化師』の鋭い目は、色んなものを見ているのでしょうね。

大原美術館:『作品または絵画』ヴォルス

小さなサイズの絵ですが、細かくしっかり描き込まれています。

大原美術館
ヴォルス(アルフレッド・オットー・ヴォルフガング・シュルツェ=バットマン)(1913-1951)
『作品または絵画』1946
グワッシュ、紙

【鑑賞の小ネタ】
・とても小さなサイズの作品
・ヴォルスはアンフォルメルの画家
・グワッシュで描かれた作品
・細かく様々なものが描かれている

ヴォルスの本名は、アルフレッド・オットー・ヴォルフガング・シュルツェ=バットマンと言います。アンフォルメル( 第二次世界大戦後 、1940年代半ばから1950年代にかけてフランスを中心としたヨーロッパ各地に現れた、激しい抽象絵画を中心とした美術の動向をあらわした言葉) の中心的画家の1人と見なされています。アンフォルメルのその他の画家に、ジャン・フォートリエやジャン・デュビュッフェがいます。大原美術館にはそれらの画家の作品も所蔵されているようで、アンフォルメルの画家の作品がかなり充実しているのが分かります。

『作品または絵画』は、縦20.5㎝×横31.5㎝とかなり小さめな作品です。横幅が30㎝ものさしより少し長いということで、イメージしやすいのではないでしょうか。その小さなスペースの中に、線や色が細かく描き込まれています。じっくり観てみると、木や建物、幾何学模様、文字のようなもの等、色々見えてきます。

この作品は、紙の上にグワッシュで描かれています。グワッシュとは、不透明水彩絵の具の1つです。不透明水彩?と思うかもしれませんが、中学校の美術の授業を思い出してみてください。ポスターカラーを使ったことがありませんか?下の色が乾いていれば重ね塗りができるあの絵の具です。下の色が透けることなく完全に隠れたはずです。不透明水彩絵の具にも種類があるので、『作品または絵の具』のグワッシュがポスターカラーだと断言はしませんが、不透明水彩絵の具のイメージはわくのではないでしょうか。ちなみに、小学校の図画工作の時間で主に使っていた絵の具は、私たちが普通にイメージする水彩絵の具で、これは透明水彩絵の具になります。

不透明水彩絵の具(グワッシュ)ということで、水彩画特有のにじみぼかしがどうなるのかなと思いましたが、『作品または絵画』 には、にじみやぼかしらしき表現がしっかり見られますよね。絵の具と混ぜる水の分量を多めにしたり、絵の具が乾く前に塗り重ねたりすることで、不透明水彩絵の具でもこれらの表現は出来るようですね。 

ところで、透明水彩では白色を使うことはめったにありません。白色を使うとどんどん画面が濁ってしまうからです。たとえ色を消したくなっても白色を使ってはいけません。その点、不透明水彩では、はみ出した部分を白色を使って消すことが出来ます。変な感じに濁ることはまずありません。そうしてみると、この不透明水彩絵の具(グワッシュ)、透明水彩絵の具ほど馴染みはないように思いますが、うまく使えばなかなか魅力的な絵の具なのかもしれませんね。

次の作品は、グワッシュとインクで仕上げられています。

DIC川村記念美術館
『無題』1942-43年
グワッシュ、インク、紙

インクの黒の線が効いてますね。黒の色味がはっきりしているためか、全体的に締まって見えて、バランスが良いように思います。

ヴォルスの作品は、抽象画ということからも、今一つ何を描いているか不明なものが多いと思うのですが、画面内の納まりはとても安定していると筆者は感じます。シンメトリーとは言いませんが、絶妙なバランスで描かれていると思うのです。ヴォルスは写真家(1937年のパリ万博では公式フォトグラファーに任命されています)でもあったので、納まりの良い構図にはこだわっていたかもしれませんね。

ヴォルスが美術家として評価されるようになるのは1945年くらいからのようです。本の挿絵も手掛けていました。

ジャン・ポーラン「スコットランドの羊飼い」の挿画
『太陽』1948
ドライポイント、紙

この挿絵『太陽』は、ドライポイントという版画技法で制作されています。このドライポイントの作品、大原美術館にも所蔵されているようです。その他にも、『木』『荒涼とした風景』『条痕』『草と螺旋』があるようですョ。

ヴォルスの抽象画は、目をつぶった時に見えるあのもやもやしたものを表現したとも言われています。細かくち密に表現された作品は、そう言われてみれば、それっぽいですね。作品名が、『無題』とか『作品』とか『絵画』等になっている場合、それこそ鑑賞者が自由に感じ取り解釈したら良いわけなのですが、作家がどんな思いで何を描いたのか、筆者的にはちょっと知りたくもなります。
貧困とアルコール中毒に苦しんだ揚げ句、 38歳の若さで食中毒で亡くなったヴォルスですが、その閉じた目には、いつも何が見えていたのでしょうね…。

番外編:水槽の経過報告③

特に変わりなく、みんな元気にしています。
新入りがいますので、紹介します。

ミクロラスボラハナビ

ミクロラスボラハナビというコイの仲間の熱帯魚です。混泳向きのおとなしい魚です。3匹購入しました。おとなしい魚は、何匹かで飼った方がストレスが軽減するんです。同じ種類の仲間がいた方が落ち着くということですね。

筆者の家の60㎝水槽には、現在、色んな種類の熱帯魚が数匹ずつ生活しています。(※アルジイーターとトランスルーセントグラスキャットはそれぞれ一匹飼いです。)興味深いことに、大抵、同種の魚と一緒にいます。自分と同じ種類の魚だと認識できているんです。当たり前のことなのかもしれませんが、なんかちょっと感心してしまいます。

ところで、ミクロラスボラハナビ、渓流の川魚で有名なアマゴに似ていると思いませんか? 渓流の女王、アマゴです。

出展:WEB魚図鑑 アマゴ

ちなみに、アマゴに見た目がとてもよく似た川魚にヤマメがいます。体の側面に赤い斑点があるのがアマゴになります。どちらもサケ科の魚です。

   

こちらにお腹を見せて泳いでいるのはコリドラスパンダです。

ふゎ~と、下から上に向かって泳いでいるのをよく見かけます。妙な動きなので、体調が悪いのかなと心配したのですが、ずっとこうなので、筆者の家のパンダのお気に入りの泳法なのかもしれません。(この泳法をしていない時は、普通に、底砂をモシャモシャしています。) コリドラスが底から水面に向かって上昇し、息継ぎのようなことをパッとやって、猛スピードで底へ戻ることはよくあることなんです。この動きは基本的に素早く行われます。ふゎ~とだら~と行われるような動きではないんです。魚にとって、水面に近づくということは、外敵から襲われる危険性があるので、ある意味命懸けの行為のはずです。筆者の家のパンダの動きはかなり個性的だと思います。

パンダは、今日もふゎ~と上昇しています。

別のコリドラス、赤コリにも注目です。どこにいるか分かりますか?

なんと、アルジイーターの定位置に赤コリがいるではありませんか!これはアルジイーターが怒るだろうなと思って見ていたら、案の定、アルジイーターがやって来て、赤コリを弾き飛ばすように流木の下に入りました。

赤コリはもうやらないだろうなと思っていたのですが、その後も、何度か試みていました。なかなかアグレッシブな赤コリです。ちなみに、現在の赤コリの体長は、アルジイーターよりは小さいですが、筆者が飼育中のコリドラスの中では一番大型です。

流木の下に赤コリ、水草の下にアルジイーターがいます。

アルジイーターが様子をうかがっています。この後しばらくして、赤コリは例によって追い出されます。でもなんとなく、前よりもアルジイーターが流木の下にいることが少なくなったような気がします…。じわじわと赤コリが力をつけていっているのでしょうか。

水槽の中の人間(魚間)模様、なかなかおもしろいですョ。

番外編:コクワガタの卵と幼虫のその後

産卵木から割り出されたコクワガタの卵と幼虫の飼育ケースです。

クヌギマットに、先日割って分解した産卵木も混ぜてあります。発見し損ねた卵や幼虫もこれで安心です。産卵木を割って卵と幼虫を取り出し、飼育ケースを再セットすることによって、卵や幼虫にとっての十分なスペースとエサが確保できます。

クヌギマットの表面に少し穴を開けて、卵と幼虫を、植物の種を植えるようにそっと置いて行きます。

コクワガタの卵
コクワガタの幼虫

卵はそのうち孵化します。幼虫は自分でクヌギマットに潜って行きます。乾燥は大敵なので、霧吹きで湿らすことを忘れてはいけません。

コバエ除けに新聞紙で覆って飼育ケースの蓋を閉じます。色んな紙があると思いますが、新聞紙が通気性も含めて丁度良いと思います。

再セットして何日か経ちました。
幼虫の姿が見えました!

黄色で囲まれた部分に幼虫がいます。この場所、なんと飼育ケースの底なんですョ。もう底まで潜っていました。順調そうです(^-^)

お母さんコクワの新しい飼育ケースがこちらです。

前のケースはたくさんの子どもたちに譲ったので、現在はこのケースで過ごしています。少しサイズが小さくなりましたが、我慢してもらおうと思います。