大原美術館:『キュビスム的コンポジション―男』ジャコメッティ

ピカソの描く絵が立体になったような作品だなと思いました。

大原美術館
アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)
『キュビスム的コンポジション―男』1926
石膏に着色

【鑑賞の小ネタ】
・ジャコメッティ初期の彫刻
・同じ形の作品がいくつかあり
・アフリカやオセアニアの影響あり
・キュビスム、シュルレアリスムの影響あり

抽象絵画などの作品名でよく見かける「コンポジション」。「構造、組立」を意味する言葉ですが、絵画や写真などでは「構図」とされるようです。キュビスムは、複数の視点から眺めたものの形を平面上に合成して表現しようとした芸術運動ですね。ピカソブラックが有名です。

ジョルジュ・ブラック(1882-1963)
『ギターを弾く女性』1913

『キュビスム的コンポジション―男』と ほぼ同じ形の作品がいくつかあるようです。

大原美術館の作品は、石膏に着色です。着色が有る無しで、随分見え方が違うものですね。

過去記事(大原美術館:『ヴェニスの女Ⅰ』ジャコメッティ)で紹介しましたが、後にあの細い作品になって行くとは思えない感じのどっしりとした 『キュビスム的コンポジション―男』 シリーズです。1920年代の作品は、キュビスムの影響の強い作品が多く見られます。

『コンポジション(男と女)』 1927

次の作品は、アフリカのダン族が儀式に用いるスプーンに想を経て、制作されたようです。

『女=スプーン』1926-1927
ブロンズ
ダン族のスプーン

ちなみに、ダン族 (コートジボワールの北西部に住む) の仮面は、ヨーロッパで人気の高い仮面なんだそうですョ。

ジャコメッティは1922年にパリへ転居していて、ロダンの弟子のアントワーヌ・ブールデルに学んでいます。この頃、ピカソやミロと交流していて、シュルレアリスム(超現実主義)の影響を受けたようです。シュルレアリスム運動が理想としていたのは、「夢と現実の矛盾した状態の肯定」でした。教科書でよく見かけるシュルレアリスムの画家と言えば、サルバドール・ダリ、ジョルジョ・デ・キリコ、ジョアン・ミロ、パブロ・ピカソなどですが、その作品はどれも不思議なものが多いように思います。静けさの中にちょっと不安になるような何かを感じます。かなり内面に向かうこのシュルレアリスム運動、ジャコメッティも色んなことを考えたのでしょうね。後の極端に細い彫刻に見られる「空虚」の世界観が出来上がるのも分かる気がします。

      

ジャコメッティは、スイスの100フラン紙幣のデザインになっています。

スイスの100フラン紙幣

裏面の彫刻は「歩く男」です。細い男性が歩いていますね。こんなに細いのに、なぜか力強く前へ進んでいるように見えるのが不思議です。

【追伸】
大原美術館には、ロダン、その弟子のブールデル、その教え子のジャコメッテイの彫刻が展示されています。併せて鑑賞すると良いかもしれませんね。

番外編:2020年の「中秋の名月」

2020年10月1日、昨夜が中秋の名月でした。

2020年10月1日22時撮影 中秋の名月

1回目の撮影1時間後はこちら。

2020年10月1日23時撮影 中秋の名月

過去記事(番外編:ストロベリームーン)の時と同じく、一眼レフカメラで撮影しています。カメラ購入時の付属の望遠レンズで撮影したものです。オートではなくマニュアルモードで頑張っています。天体撮影用の望遠レンズではないのですが、まあまあ撮れるものですね。手振れしないように息を止めてパチリです。

「中秋の名月」と言えば、きれいな満月というイメージだと思うのですが、今回の満月は次の日、10月2日となっています。しかも、中秋の名月の日は、その年によって前後します。

中秋の名月は陰暦(旧暦)の8月15日に当たります。陰暦は月の満ち欠けを基にした暦です。月は、新月(何もない状態)から約15日かけて満月となり、約15日かけて欠けて行き新月に戻ります。陰暦的には、1カ月が約29.5日になり、1年は約354日となります。

現行の太陽暦(地球が太陽の周りを回る周期を基に作られた暦)の1年は365日なので、陰暦と太陽暦でだんだん季節がずれてしまいます。このずれは、「閏月(うるうづき)」を入れて修正します。約3年に1度、13カ月の年が現れるようです。このような陰暦と太陽暦とのずれが、中秋の名月の日のずれに繋がっています。

ちなみに陰暦では、春(1月 2月 3月)、夏(4月 5月 6月)、秋(7月 8月 9月)、冬(10月 11月 12月)となります。中秋とは、秋のど真ん中の8月ということになりますね。

陰暦で 8月15日というのは、秋のど真ん中「中秋」で、しかもその年の8回目の満月の日ということだったんですね。( ※陰暦は月の満ち欠けを基に作った暦なので、15日というと、多少の前後はあるものの、ほぼ満月となります。)

ところで「中秋の名月」だけなぜ「お月見」のならわしがあるのでしょうか?諸説あるようです。だんだん空気も冷たくなり、空も高く感じられ、月もきれいに見えるからという説や、作物の収穫祭と結びついているという説等です。

何れにしても、過ごしやすい気持ちの良い季節なので、ゆっくり空を見上げるのもいいかもしれませんね。

     

  

【追伸】次の日の満月です。十六夜です。

2020年10月2日23時撮影 

左斜め上あたりが、若干膨れたような…。まん丸ですね(^-^)

大原美術館:『ヴェニスの女Ⅰ』ジャコメッティ

「Ⅰ」ということは、他にも何体かあるのでしょうか?

大原美術館
アルベルト・ジャコメッティ(1901-1966)
『ヴェニスの女Ⅰ』1956 鋳造1958

【鑑賞の小ネタ】
・とにかく細い作品
・「ヴェニスの女」シリーズの1点
・顔の表情に注目

2階から1階へ階段を下りてすぐのところに展示されています。 階段はまっすぐなので、『ヴェニスの女Ⅰ』を眺めながら下りることができます。結果として眺める位置がどんどん変わることになるので、なかなか興味深いです。

2017年に国立新美術館開館10周年ジャコメッティ展が開かれました。

出展:美術手帖
『ヴェネツィアの女Ⅰ-Ⅸ』1956

その時、「ヴェネツィア(ヴェニス)の女」9体が一堂に展示されました。中心に立っている彫刻が『ヴェニスの女Ⅰ』だと思います。この時「Ⅰ」はセンターに展示されていたんですね!

1956年、ジャコメッティはフランス代表として ヴェネツィア・ビエンナーレ(現代美術の国際美術展覧会) に参加しています。その時に制作したのが10点の女性立像から成る「ヴェネツィアの女」シリーズだったそうです。10点も制作されていたようですね。 1から10の番号は、制作順ではなく、ジャコメッティ自身が決めたものだそうです。そしてこのシリーズのモデルとなった女性は、妻のアネットと言われています。

ジャコメッティ財団所蔵
『黒いアネット』1962
油彩画

大原美術館には、紙に鉛筆で描かれた『立てる裸像』(1955年)という作品も所蔵されています。次の作品は、大原美術館所蔵作品ではないのですが、参考までに紹介します。

『スタンディングヌード』1955 
紙に鉛筆

筆者は実物を見たことがあるのですが、この作品より、もう少し鉛筆の線が目立つデッサンだったと思います。共通するのは、手足の長いモデル体型のかなり細い裸婦が描かれているということです。制作年は1955年で、『ヴェニスの女Ⅰ』の制昨年の前年です。彫刻制作にあたり、色々とイメージを膨らませていたのでしょうか?

ジャコメッティの作品は、とにかく細い作品が多いです。

マルグリット&エメ・マーグ財団美術館
『犬』1951

痩せ細っていますが、ちゃんと犬と分かりますね。むしろより犬らしく見えるような気がします。ちょっと不思議です。

ところで、ジャコメッティの作品はなぜこんなに細いのでしょうか? ジャコメッティ的には、見たままを表現しようとしていて、余計なものをそぎ落としたらこうなったということのようです。余計なものとは何でしょう?これは難解です。
実存主義哲学者のジャン・ポール・サルトルが、早い時期に論文を書いています。筆者にとっては難しい論文なのですが、きっとキーワードは「空虚」なんだと思います。その他、様々な学者や研究者がジャコメッティについて言及していて、「空虚」と似た表現として、「空間」「虚無」「距離」「禅の空」というものがありました。まだまだあるのかもしれませんが、とにかく、一言でいえば「空」絡みの世界観なんだと思います。

結局、よく分かってない筆者なのですが、「余計なもの」とか「空虚」とは何かを意識しながらまた鑑賞してみたいと思います。いつか何か分かるかもしれません(^-^)

【おまけ】
『ヴェニスの女Ⅰ』の顔に注目してみてください。特に口元。横顔に表情の違いが見られるかもしれませんョ。

番外編:コクワガタのプチ脱走!

昨晩、筆者の家の生き物コーナーから、カチカチと妙な音がしていました。またアルジイーター(ドジョウの仲間の熱帯魚)が水温計をツンツンしているのかなと思って、水槽に目をやると、アルジイーターは流木の下でジッとしています。何度かそんなことを繰り返した後、これは、お母さんコクワガタがまた木を掘っているのかもしれないという思いに至りました。

早速、飼育ケースの観察です。

新聞紙に穴が開いています。緊張が走ります。

黒い影が見えます。

飼育ケースの蓋にお母さんコクワがしがみついていました!蓋の内側にちゃんといましたが、これはプチ脱走です。そして筆者的には、懐かしい見慣れた光景でした。

飼育ケースの中のクヌギマットを厚く敷いていると、その上に置いている木と蓋の間のスペースがあまりない状態になります。そうなると、クワガタは蓋に手(足)が届き、蓋にしがみついて脱走を試みることができる状況になるんです。コクワガタのパワーでは、さずがに蓋に穴を開けることはなかなかできませんが、外国産の大型のクワガタになると、角(大アゴ)で穴を開けることは可能となります。

過去に飼育していたアチェ産スマトラオオヒラタクワガタは、何度も脱走を試みました。クワガタ業界では「アチェ」と呼ばれる人気のクワガタです。このクワガタは飼育ケースの蓋に穴を開けようとして角が挟まり、動けなくなってもがいているところを見つけられるということがよくありました。

スマトラオオヒラタクワガタ・アチェ

このアチェの体長は85ミリ あって(※クワガタ飼育業界では、単位はセンチではなくミリで表記します。こだわりのミリ表記です。) ほんとに力の強いクワガタでした。力ずくで蓋を壊して出て行くというタイプですね。

そして、実際脱走に成功していたのはパラワンオオヒラタクワガタです。なかなかの頭脳派で、木の上に乗り、角を中心に体全体で蓋を押し上げる手法で脱走していたと思います。蓋の上に念のため重石を乗せていたことを覚えています。

出展:Amazon画像より
パラワンオオヒラタクワガタ

外国産の大型クワガタが脱走した時は、過去記事でも書きましたが、色んな意味で本気で探したものです。ゴキブリ捜索の時の本気度とはまた一味違います。ゴキブリは精神的ダメージが大きいと思うのですが、クワガタ脱走の場合、挟まれるという身体的ダメージの不安も加わるのでかなりの緊張感です。昼寝も含め就寝時は特に要注意で、寝具まわりの黒い物体チェックは、決して怠ってはいけない最重要事項でした。

脱走の原因はエサ不足が多いと思います。(力の強いクワガタからの逃避もあったかもしれません。)今回のコクワガタのエサ(昆虫ゼリー)は、減ってはいたものの、まだ大丈夫そうでしたが、新しいものに取り替えました。
もしかしたら、前棲んでいた飼育ケースより今の飼育ケースの方が小さいので、窮屈だったのかもしれませんね。前の飼育ケースには、現在子どもたちが棲んでいるので、お母さんコクワにはこのままちょっと我慢してもらおうと思います。

お母さんコクワ、元気そうです。霧吹きをして蓋を閉じました。
ちなみに、子どもたち(幼虫)の飼育ケースの方は特に変わりないです。クヌギマット(幼虫のエサ)を食べながら、こちらも元気にしてくれていると思います。

美観地区:旧中国銀行倉敷本町出張所

久しぶりに美観地区を歩きました。改装工事が着々と進んでいるようです。

2020年9月撮影  旧中国銀行倉敷本町出張所

工事用の囲いも洒落てますね。奥に見えるオレンジの建造物は「有隣荘」です。 旧中国銀行倉敷本町出張所 は 国の有形文化財、市の指定重要文化財に登録されています。 薬師寺主計の設計 で、外壁の大きな円柱やステンドクラスがはめ込まれた窓など、見応えのある外観です。

2020年9月撮影 ステンドグラスがはめ込まれた窓

正面ではなく裏側(南西側)を主に改装工事しているようです。

2020年9月撮影 旧中国銀行倉敷本町出張所の南側

工事で壁が崩されています。よく見ると、煉瓦がたくさんはめ込まれているのが分かります。建設当時の様子がちょっと垣間見れた感じで、筆者的にはとても興味深いです。工事で壁を崩さなかったら、こうして壁の内部を見ることもなかったでしょうね。

パッと見は石造りの西洋建築なのですが、その構造は、鉄筋コンクリート、石造、煉瓦造、木造が組み合わさった混構造と呼ばれる形式なんだそうです。 美観地区の分かりやすい煉瓦造といえば倉敷アイビースクエアですが、 旧中国銀行倉敷本町出張所 にも煉瓦が使われていたんですね。外観からは全く分かりませんでした。筆者的にはツボです。改装工事が終われば、多分また見えなくなると思うので、 旧中国銀行倉敷本町出張所の煉瓦を見るなら今です。

旧中国銀行倉敷本町出張所 は、大原美術館の新たな展示施設「新児島館(仮称)」として2022年度に開館予定のようです。内装はどんな感じになるのでしょうね。作品の展示と共に楽しみです。

ちょっと足を延ばし、過去記事(美観地区の常夜燈近くの一本の柳)で紹介しました、がんばる柳を見に行きました。

2020年9月撮影  がんばる柳

枝が太くなっていました!そして、丁寧に剪定もされていました。根元あたりは崩れていますが、しっかり大事にされていることがよく分かります。柳は今も力強くがんばっています(^-^)