海の底に猫?
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古賀春江(1895-1933)
『深海の情景』1933
【鑑賞の小ネタ】
・男性洋画家
・シュルレアリスムの画家
・パウル クレーの影響を受ける
・古賀春江が亡くなる年の作品
名前が春江(はるえ)なので、女性の画家なのかと思うかもしれませんが、男性です。本名は古賀亀雄(こがよしお)で、「春江」は通称のようです。そして、お寺の住職の長男として生まれた春江は、亀雄を良昌(りょうしょう)と改名しています。一時期、宗教大学(今は大正大学)に在籍していたことがあったそうです。
『深海の情景』には、色んな生き物が描かれていますね。一番目に付くのは、猫のような顔を持つ人のような生き物でしょうか?なかなかのインパクトです。大きなシャコガイから出て来ているように見えます。
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仏教において貴重とされる七種の宝を七宝(しちほう)といいますが、シャコガイの殻もそのうちの1つのようです。何か関係があるのでしょうか?
次に、シャコガイの斜め後方に描かれている大きなピンクの花に注目です。花びらの枚数が全く違うのですが、中心の黄色の部分(雄しべ、雌しべ、花托)がハス(蓮)に似ていると思います。
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仏教で花といえば、ハス(蓮)ですよね。
実際に何を描いたのかはっきりしたことは分かりませんが、その生い立ちからも、春江と仏教との関わりを強く感じるところです。
その他、イカやサメ、タツノオトシゴ等、様々な生き物が描かれています。不思議なのが、後方に描かれている立派な帆掛け船です。新海ということなので、海の中ですよね。沈没した船でしょうか?それにしては全く朽ちていません。むしろ、カラフルできれい。そして黄色の丸い影(太陽?)の近くを航行しているように見えます。太陽に向かって航行していると言いたいところですが、帆の向きが逆なのでそうではなさそうです。あ、そもそも海の中なので、風は吹きませんね(^-^)
さすがシュルレアリスム(超現実主義。現実世界にとらわれず、作者の主観による、自由な想像を表現しようとするもの。)の画家の作品です。
ところで春江は、パウル・クレーの影響を強く受けていたようです。クレーの作品は大原美術館にも所蔵されています(過去記事、大原美術館:『燭台』クレー)。次の作品は大原美術館所蔵作品ではありませんが、クレーの作品です。
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『赤い風船』1922
そして古賀春江の作品がこちらです👇
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古賀春江
『遊園地』1926
どうでしょう?雰囲気が似てますね。
また、若い頃は竹久夢二(1884-1934、岡山県出身の大正ロマンを代表する画家)に憧れて、水彩画を中心に制作していたそうです。現在残されている両者の写真を見比べてみると、なんとなく雰囲気が似ているような気がします。夢二の方が少し年上で、生きた時代もほぼ同じです。
最後に、『深海の情景 』の制作年です。1933年なので亡くなった年ということになります。1933年の第20回二科展(日本の美術家団体「二科会」による美術展覧会)出品作品で、この会期中に春江は亡くなったそうです。生まれつき病弱だった春江は、この頃にはかなり衰弱していたようで、サインを同郷の友人、高田力蔵に入れてもらったといわれています。
1933年の第20回二科展 にはもう一点、絶筆とされる『サーカスの景』が出品されています。こちらです。
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古賀春江
『サーカスの景』1933
画像ではサインをはっきり判別することは難しいですが、大原美術館所蔵『深海の情景』の実物を見てみると、向かって左下に丁寧にサインされているのがわかります。
38歳と短い生涯でしたが、生ききった人生だったのではないでしょうか。