大原美術館:『マルトX夫人ーボルドー』ロートレック

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ポスター版画(リトグラフ)で知られるロートレックの油彩画です。

大原美術館
アンリ=マリー=レーモン・ド・トゥ―ルーズ=ロートレック(1864-1901)
『マルトX夫人-ボルドー』1900

【鑑賞の小ネタ】
・ロートレックは伯爵家の嫡男
・ロートレックが没する前年の作品
・力の入った髪型と髪の色
・マルトX夫人とは誰なのか?

マルトX夫人とは、誰なのでしょうか?長年気になっていて、いまだに答えが出ません。ロートレックはパリのモンマルトルに住みつき、娼家などの庶民的な歓楽街の世界をテーマに多くの作品を残しました。そうだとすると、ゴージャスな衣装から、高級娼婦かモデルなのかなと思いましたが、「夫人」とあるし、「貴婦人である」という記述をどこかで目にしたこともあるので、謎が深まるばかりです。

手掛かりは、「マルト」だと思い、ロートレックの周りの女性たちを色々調べましたが、なかなかそれらしい女性が見つかりませんでした。亡くなる前年に、体調がすぐれない中描いた意欲作だと思うので、かなり親しい人であるはずなのですが…。

そこで、ロートレックの交友関係を調べることにしました。ロートレックに影響を与えた人(芸術家やパトロン等)の妻に注目してみました。すると、いたんです!ピエール・ボナール(画家)の妻がマルトだったんです。ロートレックは1891年にボナールに出会っています。そして、リトグラフをロートレックに勧めたのはなんとボナールなんだそうです。確かに、今日目にすることが出来るロートレックのリトグラフのポスターの制作年は、1891年以降になっています。ロートレックの運命を変えた重要な出会いであったと言えそうです。

ボナールは1893年にマルトと出会い、事実婚状態がしばらく続きます。正式に結婚したのは、32年後の1925年です。マルトは「マルト・ド・メリニー」と名乗りボナールと生活していましたが、入籍時に本名は「マリア・ブールサン」だと告げたそうです。年齢もボナールより10歳年下のはずが、実際には2歳年下だったようです。まさに謎多き女性、X夫人なのです。

ただ、あまりにも見た目が違い過ぎます。

大原美術館
ピエール・ボナール(1867-1947)
『欄干の猫』1909

ボナールの作品です。左端にいる女性がマルトです。ボナールはたくさんマルトを描いていますが、どの作品も残念ながら『マルトX夫人』には全く似ていません。

見た目でいえば、ミシア・セールによく似ていると思います。ミシア・セールはピアニストで、多くの芸術家のパトロン・友人でもあり、しばしば芸術家のモデルもつとめたという女性です。ロートレックとの関わりもかなり深いです。

アンリ・ド・トゥルーズ=ロートレック
『ミシア』1897

どうでしょう?ほぼほぼこれで決まりと言いたいところですが、やはり「マルト」という名前が気になります。もう一度ボナールが描いたマルトを探してみました。

ピエール・ボナール
『Marthe』

Martheはマルトのことです。ギリギリ似ていると言えば似ているのですが、ミシアの方が服装においても断然似てますよね。

作品名にある「ボルドー」については、おそらく、この頃ロートレック自身がボルドーに滞在していたことが関係していると思います。

今回はかなり迫ったように思いますが、やはり決定打に欠けます。ロートレックファンの筆者としては、いつか解明したいものです。