大原美術館:『万有は死に帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん』フレデリック

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大原美術館の本館2階に展示されています。とても大きな絵です。

大原美術館
レオン・フレデリック(1856-1940)
『万有は死に帰す、されど神の愛は万有をして蘇らしめん』1893-1918

【 鑑賞の小ネタ 】
・この絵の横幅がこの部屋の横幅
・制作期間なんと25年
・向かって左側から描き始める
・中央に聖霊の白い鳩
・作者の娘が描き込まれている

大原美術館内の展示状況

横長の大原美術館で一番大きな絵のようです。入口を入り、振り返って上を見てみてください。なかなかの迫力です。ぴったりとこの部屋に収まるのが不思議なくらいの大きな絵なのですが、それもそのはず、この部屋の横幅は、この絵に合わせて設計されているようです。この絵に対する意気込みを感じるところです。

左側は地獄のような恐ろしい様子です。中央に聖霊の白い鳩が飛んで来ています。神様の使いがやってきたというところでしょうか。右側は人々が立ち上がり、まさに天国の様子です。画面の下の方に、花冠をかぶった女の子が5人座っているのが分かるでしょうか?真ん中に赤い花冠の女の子がいるのが見えますか?

この女の子は作者フレデリックの娘さんガブリエルなんだそうです。この作品が描かれる間に勃発した第一次世界大戦中に亡くなったみたいです。写真では解り辛いので、ぜひ実物を観ていただきたいものです。とても可愛い女の子です。ちなみに、向かって右端の絵👇

この絵👆の左下あたりに、何か文字のようなものが見えます。この画像ではまったく分からないと思いますが、「à notre bien aimée fille Gabrielle(私たちの愛する娘ガブリエルへ)」という言葉が添えられている(参照:大原美術館Ⅰ海外の絵画と彫刻-近代から現代まで―)そうです。(※ガブリエルについてはこちら大原美術館:『花』フレデリックでも書きましたので、ぜひ。)

宗教色の強い絵画ですが、どのようなメッセージが込められているのか、すべて明らかになっているわけではないそうです。絵画の中に、寓意(直接には表さず、別の物事に託して表すこと)やアトリビュート(西洋美術において伝説上・歴史上の人物または神話上の神と関連付けられる持ち物)を描き込むことはよくあります。そういう目線でこの絵を観てみると、色々描かれているのが分かります。

筆者が気づく範囲でちょっと書いてみます。

を持った黒い服の人物(女性?)がいます。この人物は、左から順に3場面で描かれています。最終場面では、服の色が黒から薄い黄緑色に変化しています。また、この人物は石版のような何かを持っています。そこにはLEXという文字が見えます。LEXとは、ラテン語で法案、法律、契約を意味します。石版、契約といえば、「モーセの十戒」?
その他、天秤油壷のような金属製のものが描かれています。天秤は、正義の女神のアトリビュート(※「目隠し」も正義の女神のアトリビュートの1つですがこの絵の中には見られないように思います)です。
緑色の衣服長い髪油壷といえば、「マグダラのマリア」のアトリビュートなのですが、その辺りは推測の域を出ません。
左側の地獄の場面には、洪水と思われるものが描かれています。上部に描かれている手は、神様の手でしょうか?左手に何か持っています。神様の頭のようにも見えますが、少し大きめの丸みを帯びたのようでもあります。
洪水と言えば、ノアの箱舟を思い出す方も多いと思います。そして、石(硫黄)と言えば、「創世記」の一場面が思い出されます。神の怒りに触れ、硫黄の火を降らされて町(ソドムとゴモラ)が滅んだというエピソードです。

何れにしても推測、想像の域を出ませんが、じっくり観ていると新たな発見があること間違いなしです。詳しくは明らかになっていない分、自分の想像力で自由に鑑賞できる大変興味深い作品だと思います。

 

[おまけ]
おじさん(おじいさん)が描かれていないという話を聞いたことがあります。どう思われますか?