筆者がアートに興味を持つきっかけとなった作品がこちらです。
高校生でした。幼い頃から絵に親しみを感じてはいたのですが、「この絵好き!」と強く思ったのはこの作品が最初です。全体のバランス、色、お洒落な文字、そしてリトグラフ(石版画)。何もかもがとてもセンス良く感じたことを覚えています。今でもリビングの壁に飾っています。他にも色んな作家の作品(ジクレープリントポスター)をいくつか飾っていて、時々展示替えをして楽しんでいるのですが、この絵だけは替えずにずっと展示したままにしています。しかも筆者がいつも座っているソファーの位置の真正面に。今でも好きが止まりません。
このポスターの場面は、カフェ・コンセール(19世紀後半から20世紀のはじめのフランスのショーを見せる飲食店の形態)の「ル・ディヴァン・ジャポネ(le Divan Japonais)」というお店の中です。「ディヴァン・ジャポネ」を直訳すると「日本の長椅子」で、お店の内装は日本風に飾られていたそうです。 黒いドレスの女性は人気の踊り子のジャンヌ・アヴリル、片眼鏡の男性は音楽評論家のエドゥワール・デュジャルダン 、奥の顔の見えない黒い長手袋の女性は歌手のイヴェット・ギルベールです。
次の作品も大好きです。ロートレック1作目のポスターです。
パリに新しくできたダンスホールの宣伝用広告ポスターです。このようにセンスの良いロートレックのポスターが、街のあちらこちららに貼り付けられていたと想像するだけでテンションが上がります。ロートレックの展覧会で実物を観たことがあるのですが、かなり大きいですョ。畳一畳分くらいはあったように思います。
中心で踊る女性は、ムーラン・ルージュ(パリのモンマルトルにあるキャバレー。フランス語で「赤い風車」)の看板ダンサーのラ・グーリュです。手前の黒いシルエットの男性は、ダンスの名手の「骨なしヴァランタン」です。まるで骨がないみたいに踊ったそうです。
ロートレックのポスター(リトグラフ)に興味を持って、他にどんな作品があるのだろうと色々と画集を見ていたら、ロートレックではないのですが似たような作品を見つけました。
このポスターの存在自体は以前から知っていたのですが、ロートレックの影響を受けた作家の作品かなと思ったぐらいで、あまりこの作品について深めていませんでした。 あのナビ派の画家ボナールが手掛けたポスターだったんですね。しかも、ボナールがロートレックにリトグラフを勧めたというではありませんか。
ボナールのこのポスター 『フランス・シャンパーニュ 』は、ポスターのデザインコンクールで優勝しています。1891年にパリの街に登場したこのポスターを見たロートレックは衝撃を受けたそうです。ボナールを探し出し、印刷者を紹介してもらうなど、アグレッシブに行動したようです。
ボナールの『フランス・シャンパーニュ 』の制作年は1891年、ロートレックの 『 ムーラン・ルージュのラ・グーリュ 』の制作年も1891 年です。ロートレックはすぐに制作に取り掛かったのでしょうね。
同じテーマで制作した2人の作品があります。こちらです。
「ラ・ルヴュ・ブランシュ」とは、1889年に創刊された芸術雑誌のことです。 この2作品は、雑誌の宣伝用ポスターということですね。雑誌の発行人タデ・ナタンソンの妻であるミシアが、この雑誌のミューズ(画家たちが敬愛する女性たち)で、宣伝用ポスターのモデによく登場しています。この2作品の女性のモデルもミシアで大丈夫だと思います。
ロートレックのリトグラフ「ディヴァン・ジャポネ」から始まった筆者のアートへの興味は、今もなお続いています。不思議なもので、あまりピンとこない作品でも、今では興味を持って観ることが出来るようになっています。
好きなこと(もの)が増えると、ささやかではありますが、日々の生活が少し楽しくなるものですね。