大原美術館:『聖母によせる頌歌』フランドラン①

ほのぼのとした絵だなぁと思いました。

大原美術館
ジュール・フランドラン(1871-1947)
『聖母によせる頌歌』1920

【鑑賞の小ネタ】
・フランスの画家
・モローやシャヴァンヌに学ぶ
・セザンヌやドニに影響を受ける
・ナビ派の美学による鈍い色調スタイル

聖母ということなので、青い衣装の女性はマリア様、膝の上の赤ちゃんはイエス・キリストで大丈夫だと思います。ちなみに、青色のマント(ヴェール)は聖母マリアのアトリビュート(神や人物を象徴するアイテム)ですね。頌歌(しょうか)とは、神の栄光をほめたたえる歌のことです。作品名が『聖母によせる頌歌』なので、聖母に対して誰かが歌をうたっているという解釈で話を進めて行こうと思います。

では、誰が歌っているのでしょうか?画面右側に肌色の天使が二人います。色味が薄くあまり目立ちませんが、しっかり描かれています。よく見ると口が開いているのが分かりますね。この天使たちが聖母に歌っているのだと思います。

聖母は目を閉じて歌を聴いているようにも見えますね。赤ちゃんイエスは指を吸いながら、右側(天使がいる方向)を向いています。イエスにも天使の歌声が聞こえているのではないでしょうか。

天使が聖母子に歌をうたう場面を描いた作品は、他にもあります👇

フォレストローンミュージアム
ウィリアム・アドルフ・ブグロー(1825-1905)
『歌を歌う天使達』 1881

こちらの作品は、歌を歌っているというよりは、楽器を奏でているように見えます。聖母の膝の上のイエスは、安心したようにぐっすり眠っていますね。聖母の目も閉じられていますが、眠っているのかどうかはちょっと微妙だなと筆者は思いました。

大原美術館の『聖母によせる頌歌』のイエスは、指を吸いながら横を向いているので、確実に何かの存在に気付いているように見えますが、『歌を歌う天使達』のイエスと両作品の聖母は、天使がすぐそこにいるとは思っていないのではないでしょうか?なんとなく感じる、なんとなく歌(音楽)が聞こえてくる、という神秘的な状況の中にいるのではないかと思います。 『聖母によせる頌歌』の肌色の天使たちが薄く描かれているのはそのためかもしれませんね。いるようでいない、いないようでいる、そんな感じです。

ところで、画面中央の黄色の菱形、何に見えるでしょうか? ど真ん中になんだかしっかり描かれているように見えませんか? 厚塗りで効果的に白色を用いたためか金色にも見えてきます。キリスト教の社会では、黄色はユダの着物の色から裏切りの色等、ネガティブなイメージがあるようなのですが…。

スクロヴェーニ礼拝堂
ジョット・ディ・ボンドーネ(1267-1337
『ユダの接吻』1305年頃

大原美術館の『聖母によせる頌歌』の画面中央の菱形の色は、金色と捉えた方が良さそうです。キリスト教において金色は王位や尊厳、威風を示す色です。もしかしたらこの金色の菱形は、神そのものを表現したものなのかもしれませんね。

植物もたくさん描かれています。白色の花は、きっとユリだと思います。聖母のアトリビュートの1つ、白いユリ(「純潔」の象徴)ではないでしょうか。では、ピンク色と赤色の花は何の花なんでしょう? 遠近感(位置)がよく把握できませんが、まあまあ背が高い植物のように見えます。ジャーマンアイリス(ドイツアヤメ)とかどうでしょう?ジャーマンアイリスはアヤメ科アヤメ属の植物で、1800年代初期にドイツ、フランスで品種改良され、その後、アメリカで多数の品種を出しているそうです。開花時期も5月~6月なので、ユリの開花時期と重なる部分がありますね。ちなみに、ジャーマンアイリスの花言葉は「燃える思い」「情熱」でした。

         

     ~つづく~