大原美術館:『神その像の如くに人を創造し給えり』ビューラー

デューラー(アルブレヒト・デューラー、ドイツのルネサンス期の画家、1471-1528)ではなく、ビューラーです。

大原美術館
ハンス・アドルフ・ビューラー(1877-1951)
『神その像の如くに人を創造し給えり』制作年不詳

【鑑賞の小ネタ】
・ドイツの画家
・アダムの誕生を描く
・両腕をひろげた特徴的なポーズ
・ナチス政権に協力

少年?青年?が両腕をひろげて立ち、こちらを見ていますね。これは多分、オランスのポーズをとっているのだと思います。「オランス」とはラテン語で「祈る人」の意味で、初期キリスト教美術でよく見られる図像です。古くは、死者のために死後の救済を祈る代願(ダイガン、本人に代わって神仏などに祈願すること)者を意味するものでした。

ちなみに聖母マリアのオランスのポーズはこちら👇

オランスの聖母(13世紀)

『神その像の如くに人を創造し給えり』 は、アダムの誕生を描いたものと説明に書いてありましたので、身体はともかく顔が少年のようなこの人物はアダムで間違いなしです。ただ、アダムの誕生といえば、キリスト教の時代よりも遥か昔のことになるで、このポーズでのアダムは時代が合わないというか独特ですよね。

もっとも有名なアダムの絵といえば、こちらでしょうか?👇

システィーナ礼拝堂
ミケランジェロ・ブオナローティ(1475-1564)
『アダムの創造』1508~1512

神がアダム(画面左)に生命を吹き込む場面を表現しているとされています。アダムはイブと共に描かれることがほとんどです。エデンの園で禁断の果実を食べてしまうシーンやエデンの園から追放されるシーンをよく見かけるのではないでしょうか。そうしてみると 『神その像の如くに人を創造し給えり』 のように、アダム単体で描かれるのは珍しいかもしれませんね。

キリスト教に関する作品がないか探していたらこちらの作品を見つけました👇

『夕陽を眺める羊飼い』1945

キリスト教の聖書には、「羊飼い」が多く登場します。アダムとイブの子アベルも羊飼いだったようです。なかでも「善き羊飼い」は、イエス・キリストの象徴的な呼称なんだそうです。

『夕陽を眺める羊飼い』の制作年は1945年です。第二次世界大戦(1939年-1945年)が終わった年です。ビューラーは、国家社会主義(この場合ナチズム)の文化政策家でした。作品が「退廃的」とみなされた大学教授を解雇したりしています。そして戦争が終わった1945年、以前購入していたシュポネック城に隠居しています。後に彼は、非ナチ化(ナチス体勢の除去)で責任を問われ、「ナチスの同調者」と宣言されています。

『夕陽を眺める羊飼い』はどんな思いで描いたのでしょうね。そして、『神その像の如くに人を創造し給えり』 は制作年不詳ではありますが、なんとなく戦後に描いたのではないかと筆者は勝手に思っています。

    

『神その像の如くに人を創造し給えり』を よく見ると、画面上部に星や細ーい月、雲のようなものが描かれています。画面下部のもやもやしたものは何でしょうね。アダムは土から創造されたということなので、大地かな? 現在この作品は、エル・グレコの『受胎告知』と同じ部屋で展示されています。 だから余計にそう感じるのかもしれませんが、全体的になんだかとても神秘的な雰囲気の作品に見えますョ。