大原美術館:『習作』坂田一男

アースカラー(大地や海、植物など地球を感じさせる自然の色)を基調とした、とても落ち着いた雰囲気のある作品だなと思いました。

大原美術館
坂田一男(1889-1956)
『習作』1926

【鑑賞の小ネタ】
・岡山市出身
・フェルナン.レジェの教室で学ぶ
・ル.コルビュジェと交友

何を描いている作品なのでしょうか? 筆者的には、何かの装置の内部(機械部分)を表現しているように見えます。色は自然(地球)をイメージさせるアースカラーなのに、描いているものは無機質な装置(機械)。このミスマッチがなんとも絶妙ではありませんか。

中央に位置するダークグレーの柱のような細長い長方形が、左右を分断しているように見えます。一番地味な色なのにこの存在感。何か意味がありそうですね。
他にも画面の中央に柱が描かれているものはないか探してみると、ありました👇

倉敷市立美術館
坂田一男
『コンポジション(顔と壺)』1926頃

この中央の柱のようなものが有るか無いかで、絵の印象が随分違ってきます。左右を分断しているように見えて、実は、繋げているのかもしれませんね。そして、柱のおかげで安定感が増し、全体的におさまりが良くなっているような気もします。思い切って中央に配置したかのように見えるこの柱は、何かと効果的に働いているのではないでしょうか。

ところで、坂田はフェルナン・レジェ(過去記事、大原美術館:『踊り子たち(黄色の地)』レジェ)に師事しています。こちらはレジェの静物画👇

フェルナン・レジェ(1881-1955)
『ビールマグカップの静物画』1921

坂田が影響を受けているのがよく分かります。レジェはキュビスムの画家ということになっていますが、一般によくイメージされるキュビスム(ピカソやブラックらのキュビスム)とは、少し雰囲気が違いますよね。前出の坂田の2点の作品も、ちょっと違うように思います。

とはいえ、坂田のキュビズムらしい作品もあります👇

岡山県立美術館
坂田一男
『キュビスム的人物像』1925

制作年が大原美術館の『習作』の1年前、1925年となっています。キュビスム的作風から、レジェの影響を受けつつ、坂田のスタイルが確立していったということでしょうか?

また、坂田はあの有名な建築家ル・コルビュジエとも交流しています。建築家のイメージの強いル・コルビュジエですが、絵画作品もあるんです👇

ル・コルビュジエ(1887-1965)
『静物』1920

いかがでしょう?
色合い等、坂田の絵画、前出の『習作』や『コンポジション(顔と壺)』の雰囲気にとても似ているように思います。レジェだけでなく、ル・コルビュジエの影響も大きかったことがうかがえます。

ル・コルビュジエの初期は、ピュリスム(純粋主義)の画家として前衛芸術運動にも関わっていたそうです。ピュリスムとは、装飾性・幻想性・作家の個性などに影響されず、シンプルで幾何学的な形(立方体や円筒形)で表現することにより、普遍的な秩序と調和のとれた美を目指すというものです。フランスで展開されたピュリスムの絵画運動は、1918年から1925年という短期間ではありましたが、坂田に衝撃を与えたことでしょう。筆者的には、坂田はキュビスムよりピュリスムの影響を強く受けた画家という認識です。

キュビスムピュリスムを意識しながら鑑賞するのも良いかもしれませんね(^-^)

     

【おまけ】
『習作』をよく見ると、坂田のサインが書かれているのが分かります。サインがあるということは 、「習作」ではなく「完成作品」ではないのか?ということに言及した記述をどこかで見たことがあります。どうなんでしょうね。