鴨の頭はどこだと思いますか?

シャイム・スーティン(1893-1943)
『吊るされた鴨』1925
【鑑賞の小ネタ】
・ロシア出身のユダヤ人画家
・エコール ド パリの画家の1人
・モディリアーニがよく面倒をみた
・動物の死骸の作品他にもあり
この画像だと、何となく分かるかもしれませんが、実物はもう少し全体的に暗めで、頭がどこなのかなかなか判別できません。筆者もしばらくの間、鴨は頭を持ち上げているとばかり思っていました。 鴨の口ばしを焦点に、ぜひ探してみてください。(※鴨の頭は下を向いています。)
ところで、このテーマで描くと決めたシャイム・スーティンとはどんな画家だったのでしょうか? モチーフとして、吊るされた死んだ動物をなかなか選ばないと筆者は思うのです。どうでしょう?
スーティンは、マルク・シャガールや藤田嗣治(レオナール・フジタ、フランスに帰化した画家)と親交があったようです。そして少し先輩のアメデオ・モディリアーニは、スーティンの面倒をよく見ていたといいます。モディリアーニが描いたスーティンがこちら。

アメデオ・モディリアーニ(1884-1920)
『シャイム・スーティンの肖像』1916
スーティンは、ロシア帝国(現ベラルーシのミンスク州)のスミラヴィチのユダヤ人家庭の11人兄弟の10番目として生まれました。村で最も貧しい一家だったそうです。また体も弱かったため、家の手伝いもできず、兄弟たちからは邪魔者扱いされていました。なかなか大変な幼少期を過ごしたようですね。
スーティンは肖像画や風景画も描いていますが、静物画については、動物の死骸をテーマにすることが多いようです。

『ホワイトダック』1925

『摘み取られた鶏』1925

『牛の死骸』1925
なかなかのインパクトですよね。制作年が全て1925年になっています。1920年にモディリアーニが亡くなったあたりから、スーティンの作風が変化し始めたということなので、何か関係があるのかもしれません。ちなみに、次の静物画は1917年頃に制作されたものです。

ニシンの死骸ではありますが、随分印象が違います。この作品からは、そんなに激しい感じはしませんよね。
スーティンは1933年以降、殆ど創作しなくなったそうです。そして第二次世界大戦中、ユダヤ人であるスーティンはゲシュタポ(ドイツの秘密国家警察)から逃れるため、フランスの村々を転々としました。 一時期、経済的に裕福な時もあったようですが、スーティンの人生は一貫して困難であった言えそうです。
そんなスーティンですが、バーンズ・コレクションで有名なアメリカの大コレクター、アルバート・C・バーンズは、「スーティンはゴッホよりもはるかに重要な画家である」と絶賛したそうですョ。