大原美術館:『マルセイユの港』マルケ

穏やかな雰囲気の港ですね。

大原美術館
アルベール・マルケ(1875-1947)
『マルセイユの港』1916

【鑑賞の小ネタ】
・マルケはフォーヴィスムの画家
・「水の画家」と評される
・マティスとは親しい友達
・丘の上に寺院あり

アルベール・マルケフォービスム(野獣派)の画家に分類されます。ところが、この作品『マルセイユの港』は、フォービスム特有の原色を多用した強烈な色彩や粗々しい筆使いをあまり感じません。

制作年が少し前の作品は、しっかりフォービスムでした。こちらです。

『釣り船』1906

帆のある船が泊まっています。近くにオレンジ色の屋根の建物も見えます。どこなのか分かりませんが、きっとこの絵も港を描いたものなんだと思います。大原美術館の『マルセイユの港』とは画風が随分違いますね。

『マルセイユの港』 の後景に、丘があって、その上に何か建物があるのが分かるでしょうか? 筆者には最初遺跡っぽく見えました。
作品名が『マルセイユの港』なので、マルセイユの地図を調べてみたところ、マルセイユは湾になっていて、港湾都市であるということが分かりました。

後景に見える丘は島なのかと思っていましたが、どうやら違いましたね。マルセイユは湾になっているということなので、建物が立っているのは島ではなく、向こう岸の丘の上ということになります。
ちなみに、現在のマルセイユの港の写真がこちら。

出典:Wikiwand 
「旧港よりノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院を望む」

「旧港」と呼ばれているようです。 マルケの『マルセイユの港』と 「旧港よりノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院を望む」 写真、ほとんど同じ構図のように見えますよね。 ということで、丘の上の建物は「ノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院 」で問題ないと思います。

マルセイユ旧港周辺の略図がこちら。

「マルセイユ旧港」周辺の略図

マルケは⇙の方向を描いたのだと思います。(※略図の方は北を上にして書きましたので、マルケの『マルセイユの港』とは上下が逆転しています。)

ところで、『マルセイユの港』の中に描かれている船に注目してみてください。手前の船はかなり大きく描かれていますよね。それに比べて、中央に描かれている船の小さいこと。お風呂で浮かばせて遊ぶおもちゃの舟のようです。これも何かフォービスムの極端な表現なのかなと思っていたのですが、現在の港の写真と見比べてみて、マルケは案外そのまま、見たままに描いたのではないかと思うようになりました。 実際の写真の中央左側に写っているボートも、絵の中のボートと同じくかなり小さいんです。

それにしても、あまりにも小さく描かれているので、ちょっと不思議です。この港は実際、ヨットやボート等の小型船も行き来するような港なので、船の大小があって当然ではあるのですが。 観賞していると、遠近感がよく分らなくなるような気がしてきます。少し不安定なこの感じ、マルケの作品の魅力の1つではないかと思っています。 見たままを描いているようだけど、ちょっと遠近感が独特。
次の絵も港を描いた作品です。

ポーラ美術館
『アルジェリアの港』1924

この作品の色合いもとても穏やかです。大原美術館の『マルセイユの港』の雰囲気に似ているように思います。 では、どこか不安定な個所があるでしょうか?
右半分は特に感じませんが、左下半分の停泊する船から茶色の屋根の建物にかけて、手前に向けて少し歪んでいるように見えるのですがどうでしょう?

穏やかな中にあるちょとした不思議をぜひ味わって頂きたいものです。