阿智神社が鎮座する鶴形山は、かつて瀬戸内海に浮かぶ島でした。倉敷美観地区や鶴形山の辺りは、「吉備の穴海」の西部にあたる「阿知の海」と呼ばれる海域だったようです。鶴形山(鶴形島)が陸続きになるのは、平安時代のことで、「阿智潟」と呼ばれる干潟が広がっていたそうです。
美観地区の本町通りを東へ向かって歩いていると、左手に石の階段と岩が突然現れます。町家が続く通りの中に、ここだけ異空間です。
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岡本直樹「倉敷川畔美観地区鳥瞰絵図」の一部
赤い楕円のところです。 鶴形山の南東の端になります。根香寺倉敷八十八ヶ所第八十二番札所にもなっているようです。石の階段は、後になって札所巡礼のために整備されたのだと思いますが、岩肌は、かつての海岸線を思わせます。
島の名残りは、鶴形山に自生する植物にも見られます。まずはクスドイゲです。
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クスドイゲは、海岸沿いの山地に生える常緑樹です。枝にトゲがあります。筆者が見つけたクスドイゲ(大事に管理されているようでした)は、南側の方の葉は茂っていたのですが、北側の方の葉はあまり生えてなく、トゲが目立っていたのですぐ判りました。
次にオニヤブソテツです。なかなかの存在感です。
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常緑のシダ植物で、海岸近くの岩場やその周辺に多く見られます。鶴形山にはワラビもたくさん生息しています。シダ植物の形状は、よく似ているものが多いので、見分けが付くかなと思っていましたが、その違いは明らかでした。
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次にネムノキです。丁度、花が咲いていました。
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各地の山野、野原、河岸に自生しますが、塩害に強い特性から、日本では古くから海岸線の防風林として利用されていたそうです。このネムノキは阿智神社の境内から撮影したもので、境内の外のクスノキやクヌギの林の中に生息しています。かなり大きく成長したネムノキです。日当たりの良い場所を好むメージが強かったので、日当たりの悪そうな林の中になぜネムノキが生えているのかなと以前から疑問に思っていました。島の名残りかもしれないと思うと、なんかいいですね。
最後にツワブキです。
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美観地区本町通りの植え込みのツワブキ
ツワブキは海岸の岩の上などに多く生息します。今日では、園芸用として用いられることも多く、よく見かける植物ですね。このツワブキは、斑入りのものが混ざっています。 鶴形山にも自生するという調査記録があったので、歩いて探してみましたが、見つけることができませんでした。またゆっくり探してみたいと思います。