大原美術館:『木を伐(き)る人』ホドラー

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紙幣のデザインにもなった絵みたいですョ。

大原美術館
フェルディナント・ホドラー(1853-1918)
『木を伐る人』1910

【鑑賞の小ネタ】
・ホドラーはスイスの国民的画家
・紙幣のデザインに採用された絵
・似ている作品が多数あり
・水色の楕円が印象的
・ホドラーは壁画も手掛ける画家

ホドラーはスイスの国民的画家で、23歳の時にジュネーヴの美術協会のコンクールで第一席の賞をもらっています。そしてホドラーの活躍の場は、生涯スイスでした。

そんなホドラーは、スイスの紙幣のデザインを国から依頼されています。第2次銀行券の中の50フラン紙幣と100フラン紙幣の表裏を担当していて、50フラン紙幣の裏面に「木を伐る人」が描かれています。

出展:Wikipedia スイス紙幣50フラン

確かに力強く斧を振り上げる人の姿がデザインされていますね。色々と試行錯誤したのでしょうか、「木を伐る人」とほとんど同じ構図の作品が、複数残されています。その内の2枚がこちら。

ベルン、モビリア―ル美術コレクション
『木を伐る人』1910
オルセー美術館
『The Woodcutter』1910

ほとんど同じですね。ちなみに、100フラン紙幣はこちらです。

出展:Wikipedia スイス紙幣100フラン
ベルン美術館
『草を刈る人』1910

これらの紙幣は、1911年から14年にかけて発行されて、1978年に失効されるまで長く使われていたようです。

ホドラーの作風は、一見写実的に見えるのですが、象徴主義(目に見えない人間の心理や観念を表現)的な一面もあるようです。「木を伐る人」という題目は、見た通りそのままなのですが、ホドラー自身は内面をより表現した「力」という題目にしたかった(大原美術館HPより)ようですョ。木こりの姿を通して、人間の力強さを表現したかったのかもしれませんね。

ところで、水色の楕円、気になりませんか? 雲の色と空の色が逆転したような…。水溜まりでしょうか? 特定のものはなく、何かの象徴なのかもしれませんが。次の絵の雲は、「木を伐る人」の水色の楕円の表現に似ていると思います。

『シェブルから見たジュネーブ湖』1904

この絵だと、白い部分が雲だと分かるのですが、不思議な描き方ですよね。象徴主義の画家は、自己の内面を追求し表現することが多いのですが、ホドラーの内面とはどういったものだったのでしょうか?調べたところによると、ホドラーの生涯はなかなか大変なものだったようです。幼少期に父親と兄弟を結核で失い、母親は装飾美術を手掛ける職人と再婚しますが、やはり結核で亡くなってしまいます。義理の父親から絵画の最初の手ほどきを受けて、看板職人をしたり観光客相手に絵を売ったりして生計を立てたという苦労人でした。

苦労したにしては、今回採り上げた絵たちは、暗さを感じないように思うのですが、どうでしょう? どうやら途中から画風が変わって行ったようです。ホドラーの関心は、世界の中にある「リズム」になりました。それを表現しようと、画面上に人や対象物を反復連鎖させることによって視覚的に「リズム」を感じ取らせる等、色々と試みています。『 シェブルから見たジュネーブ湖 』を見てみると、抽象的に描かれた雲が湖面に映って反復され、確かにある種の「リズム」を作っているようにも感じられます。

『木を伐る人』 ではどうでしょうか? 斧を振る人は、力強いと同時に、リズムよく木を伐っているように見えなくもないです。そして、謎の水色の楕円、これにもリズムがあるのでしょうか?抽象的で丸いということだけで、リズムを感じなくもないのですが、これは画面にリズムを与える象徴的な何かということで良いのではないかと思います。この楕円がないと、バック画面がとても平面的になってしまいますしね。「リズム」、なかなか奥深いですね。