大原美術館:『オーヴェルシーの運河』シニャック

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塗り方がとてもおもしろい絵だなと思いました。

大原美術館
ポール・シニャック(1863-1935)
『オーヴェルシーの運河』1906

【鑑賞の小ネタ】
・この絵はオランダのOverschie
・シニャックの趣味はセーリング
・海岸風景画が多い
・スーラと共に新印象派の巨匠

点々、凄いですよね。根気がいりそうな塗り方です。時間もかかりそうです。点描(テンビョウ)という点やとても短いタッチで表現する技法で描かれています。印象派の画家たちは、視覚混合(遠くから見ると混じり合ってひとつの色に見える光学現象)を絵画に応用し、筆触分割(パレットの上で絵の具を混ぜずに、原色に近い絵の具の小さなタッチをキャンパスの上に並べる)の方法を生み出しました。点描画法では、筆触分割の小さなタッチがもっと細かいタッチ、点に近いものになっていますね。シニャックが大きな影響を受けたジョルジュ・スーラの作品を見ると、さらに細かいタッチの点描になっているのが分かります。

シカゴ美術館
ジョルジュ・スーラ(1859-1891)
『グランド・ジャット島の日曜日の午後』1884-1886

『オーヴェルシーの運河』には大きな風車が描かれています。オランダなんだろうなと思い、地図を見てみると、オランダにはオーヴェルシーはなくて、フランスにオーベルシーがありました。え?と思いましたが、よくある読み方の問題でした。筆者の見た地図では、オランダのオーフェルスヒー(Overschie)となっていました。そしてフランスのオーベルシー(Aubercy)でした。ちなみに、オランダのオーフェルスヒーには立派な運河がありますが、フランスのオーベルシーには運河はありません。

シニャックは1884年にスーラに出会っています。スーラの描写方法や色彩理論に心打たれ、忠実な支持者となり、スーラ(1891年31歳で死去)亡き後、新印象派の発展と体系化に努めました。スーラに出会う前の作品はこちら。

オルセー美術館
ポール・シニャック
『パリ郊外、ジュヌヴィリエ街道』1883

オーヴェルシー(オーフェルスヒー)はどんなところだったのでしょうか?同時代の画家の作品がこちら。

ボイマンス・ヴァン・べーニンゲン美術館
ポール・ハブリエル
『オーフェルスヒー近くの風車のある干拓地』1898

風車が描かれていますね。オーフェルスヒーは、オランダのロッテルダムの中の都市なので、ロッテルダムを描いた作品も紹介します。

ボイマンス・ヴァン・べーニンゲン美術館
ヨハン・ヨンキント(1819-1891)
『ロッテルダム』1867

中央に特徴的な建物が描かれていますが、この建物、大原美術館の『オーヴェルシーの運河』の中にも描かれているような…

特徴的な建物

黄色で囲った部分です。ちょっと似てると思いませんか?塔の上部辺りが、ポコポコと丸みを帯びて特徴的だったので、前から気になってました。この建物に似たロッテルダム(オーフェルスヒー)の建築物がないか、色々画像を調べてみました。

アムステルダム国立美術館
ヨハン・ヨンキント(1819-1891)
『月明かりの下でのオーフェルスヒー』1871
ヨハン・ヨンキント(1819-1891)
『オランダ、オーフェルスヒーの眺め』

作品名にはっきりとオーフェルスヒー(オーヴェルシー)とあります。大原美術館の『オーヴェルシーの運河』のあの建物と同じと考えて良いのではないかと思います。そして、やっと見つけました!

出展:Wikipedia 
「Nederlands Hervormde Kerk van Overschie」

「オランダ改革派オーバーシー教会」ではないかと思います。Kerkとはオランダ語で教会で、Overschieをここではオーバーシーとしていますね。

 

次は風車に注目です。『オーヴェルシーの運河』の風車もこの系列の風車だと思います。この絵はヨハン・ヨンキントによるものですが、詳細に描かれているので風車の構造がよく分かります。

ティッセン=ボルミネッサ美術館
ヨハン・ヨンキント
『デルフト近くの風車小屋』1857

鐘楼に鐘楼守がいたように、かつて風車にも風車守がいました。その技術は親方から弟子へ受け継がれていたそうです。2017年にオランダの「風車守の技術」が ユネスコ世界無形文化遺産 に登録されています。

シニャックは、水彩画も多く残しています。

国立西洋美術館
ポール・シニャック
『燈台』19世紀
ポール・シニャック
『ラ・ロシェルの釣り船』1920
ポール・シニャック
『バルフルール』1931

シニャックはセーリングが趣味だったので、海岸風景をたくさん描いてます。水彩画もなかなか良いですよね。