薄いベールがかかったような絵です。
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オディロン・ルドン(1840-1916)
『鐘楼守』1905-10年頃
【鑑賞の小ネタ】
・ルドンは里子に出されていて孤独
・幻想の世界を描き続けた画家
・モローとともに象徴主義
・シュルレアリスムの先駆者
・鐘楼守のモデルは誰なのか?
輪郭がはっきりしない絵だなと思いました。鐘楼守の腕と頭に注目してみてください。なんとなく二重になって見えませんか?左足も全体的に二重に見えなくもないかなと思います。鐘楼守は鐘をつくので、動く様子を二重にすることによって表しているのではという見方があるようです。または、音の振動を表しているとか。
ルドンは裕福な家の息子としてフランスのボルドーで生まれました。ところが、生後2日でボルドー近郊の伯父の家へ里子に出されています。 親元を離れて寂しい幼少期を過ごしました。病弱で内向的な子どもだったそうです。親、特に母親に捨てられた感のある幼少期が、その後のルドンの作風に強く影響して行きます。
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不気味な絵です。よく見ると蜘蛛は笑っています。気球に大きな眼が描かれていますが、ルドンにとって眼は重要なテーマだったようです。そしてルドンの代表作はこちら。
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「キュクロプス」1914
キュクロプス(サイクロプス)はギリシア神話に登場する単眼の巨人です。その捉え方は、神だったり怪物だったりします。ルドンのキュクロプスの表情は、怖いというよりは優しい感じがします。横たわる女性を見守るような、そっと覗いてる感じです。他の画家のキュクロプスだとこんな感じになります。
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ルドンの表現とは随分違うことが分かります。
何れにしてもルドンの絵は、不思議でちょっと不気味なのです。そうしてみると、「鐘楼守」はルドンにしては、特に不気味さもなく至って普通だなと思います。何(誰)をテーマに描いたものなのでしょうか?フランス、パリ、鐘楼守ですぐに頭に浮かんでくるのは、ディズニーの『ノートルダムの鐘』ですよね。原作はヴィクトル・ユーゴー(1802-1885)の『ノートルダム・ド・パリ』1831年です。ルドンが生まれる前に発表されている作品なので、ルドンも目にしたかもしれません。
ルドンは1863年に、ロドルフ・ブレスダン(1822-1885)という放浪の画家に出会い、銅版画の指導を受けています。ブレスダンは同時代の作家や詩人と交流していて、その中に、 なんとヴィクトル・ユーゴー もいます。もしこの頃3人が出会っていたとすると、ルドン20代、ブレスダン40代、ユーゴー60代といったところです。
大原美術館の『鐘楼守』が『ノートルダム・ド・パリ』の鐘つき「カジモド」だったとすると、見た目があまりにも違いすぎます。ただ、ルドンは、「キュクロプス」をあのように優しく描く画家なので、「カジモド」もありなのかなと想像してしまいます。
視点を変えて、「鐘楼守」と見た目が似ている絵を探してみました。
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「Saint Sebastian」1910-1912
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「Saint Sebastian」1910
2点とも聖セバスティアヌスです。腰布のみの姿、そして、顔のパーツをはっきり描かない等、色々類似点はあると思います。貼りついたような髪も似てますね。そしてポージングが最も似ているのはこちら。
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いかがでしょう?足先の向きまでそっくりです。おまけに、木の枝か何かを引っ張ってる感じです。 この絵のモデルはギリシア神話に登場する吟遊詩人「オルフェウス」です。冥界から抜け出すまで後ろを振り返ってはいけないのに振り返ってしまった、というあの神話の主人公ですよね。オルフェウスは竪琴の名手なので、鐘つきもしていたという話がないかなと思い探してみましたが、見つけることが出来ませんでした。
結局モデルは謎のままですが、静かな気持ちになる絵だなと思います。