大原美術館の工芸・東洋館です。かつては米蔵として使用されていました。 室内や外装のデザインをしたのは染色家の芹沢銈介です。
現在、 芹沢銈介 展示室となっているベンガラ色の土蔵です。ベンガラ色は、系統色名でいうと「暗い黄みの赤」なんだそうです。おさえめの美しい赤色です。
ところで、どこかに鼠(ねずみ)が描かれているというのですが、探せますか?
ここです!
屋根の先に、長いしっぽの鼠らしきものが描かれています。走っているようにも見えますね。
それにしても、米蔵に鼠って何かおかしいと思いませんか?鼠は米を食べてしまうので駆除したい生き物のように思うのですが…。土蔵と鼠についてちょっと調べてみました。
鼠は『古事記』に登場しています。大国主命(おおくにぬしのみこと)が野火に囲まれて窮地に追いやられた時、助言を与えて大国主命を助けています。
また、七福神の大黒天(だいこくてん)は鼠を使者としています。そういえば、大黒天は米俵に乗ってますよね。
奈良時代に始まった神仏習合(しんぶつしゅうごう)により、大国主命と大黒天は融合していきます。神仏習合とは、そもそも日本にあった神様の信仰である神道と外国からやってきた仏教の信仰がひとつになった宗教の考え方です。「大国」と「大黒」、確かに融合しそうですね。
大黒天は食物や財福を司る神ですので、米蔵としての土蔵に鼠の絵というのは、おかしなことではないのだなと思いました。
その他、土蔵と鼠に関係するお話を探してみると、中国の秦の時代に始皇帝の宰相として活躍した李斯(りし)の「便所の鼠と米蔵の鼠」というお話がありました。便所の鼠は食べ物もなく周りを気にしておどおどしているが、米蔵の鼠はよく太り堂々としていた、という内容です。住んでいる環境によって違いが生まれ、それは人間の世界でも同じであり、それならば自分は米蔵の鼠になろうというような話です。ちなみに余談ではありますが、李斯は日本の大人気漫画「キングダム」に登場しています。
じっくり見ていると色んな発見があって楽しいですね。